① 560 GHz時間分解高周波ESRの改良:本研究で新規に開発した560 GHz時間分解高周波ESRの高磁場化を目指し,パルスマグネット部の改良を行った。ボアを内径22mmから16mmに小さくすることで,従来のコンデンサバンク(125kJ)を使用してもより高磁場を発生できるマグネットの設計を行った。また,THz光学系に導波管を用いることで,高感度化を試みた。 ② 磁場効果をプローブとした不均一反応場のナノ構造の解明:イオン液体の不均一反応場との比較を目的として,球状・棒状ミセル,逆ミセル,ベシクル,エマルジョンなどを用いて,ベンゾフェノンの光誘起水素引き抜き反応をプローブ反応として,生成するベンゾフェノンケチルラジカルの散逸ラジカル収量に対する磁場効果を,0-30 Tの磁場下で測定した。また,観測された磁場効果の磁場依存性を統計リュービル方程式(SLE)を用いて解析することで,ナノ反応場に関わる情報(大きさ,形,ミクロ粘性,ケージからの散逸確率(ケージ効果の程度))を解明した。 ③イオン液体のケージ寿命の解明:アルキル鎖長が異なる3種類のイオン液体について,ベンゾフェノンのフェノールからの光誘起水素引き抜き反応と,チオベンゾフェノン励起三重項状態の自己消光反応を用いて,イオン液体のケージ寿命を初めて実験的に明らかにした。 ④ 生体反応のモデル反応の反応ダイナミクス:生体反応および光合成系のモデル反応において,不均一なナノ反応場中での反応ダイナミクスの観測を試みた。タンパク質やリボソームの代わりに,球状ミセル中でラジカル対の立体配置や反応ダイナミクスがどのように観測でき,またそれらがどのようにナノ構造を反映するかに注目し,ジスルフィドの光分解反応について調べた。
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