研究課題
N@C60は、内包する窒素原子の3個のラジカル電子に由来するスピン四重項状態であり、そのESR スペクトルの線幅が10KHz 以下(分解能1ppm 以上)と驚異的に狭い線幅を持つ。これは窒素原子が非常に高い対称性を持つC60ケージの真中心に局在して、完全に等方的な環境にあることを反映している。ゆえに、回りの環境に対して敏感にESRスペクトルが変化する。そこでN@C60・γ-cyclodextrin(γ-CD)包摂錯体中の電子スピンとプロトン核(H核)スピンの磁気相互作用に由来する緩和過程を明らかにすることを研究目的とした。N@C60のトルエン溶媒(H8)と重水素化トルエン(D8)溶媒中のESRスペクトルを比較したところ、H8溶媒の凍結溶液ではESRスペクトルが幅広となり、一方D8溶媒では先鋭化した。また先鋭化と同時に、電子スピン四重項状態のゼロ磁場分裂相互作用に由来するスペクトル構造が見え始め、回りのD8溶媒との分子間相互作用で生ずる電場の影響を敏感に反映した。一方、N@C60・γ-CD分子間錯体の凍結水溶液ESRスペクトルは、溶媒を軽水から重水に代えてもその線幅は変化しなかった。これは、重水素置換しないホストγ-CD 上の炭素に結合する112個のH核の磁気双極子相互作用が、ESRスペクトルの線幅を決めているためである。またN@C60由来の三本線の両側に新たなサイドバンド構造が観測された。これはH核スピンのゼーマン周波数に一致する分裂幅を示すことより、H核スピンの反転を伴う禁制ESR遷移と同定できた。この出現原因は、ラジカル電子スピンとγ-CD 上の112個の炭素に結合するH核の磁気双極子相互作用である。ESR測定と平行してN@C60・γ-CD分子間錯体の単結晶x-線回折に成功し、分子構造が解っているのでH核による磁気双極子相互作用の大きさを正確に見積もることができた。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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