研究概要 |
本研究では、概念的に新しい化学種である高周期14族元素トリアニオン等価体を開発し、これを用いてこれまでにほとんど研究例のない高周期14族元素三重結合化合物を系統的に合成し、その特異な構造や物性を明らかにすることを目的とした。 今回、かさ高いm-テルフェニル型置換基である2,6-ビス(2,4,6-トリイソプロピルフェニル)フェニル基(以下アリール基と略す)を有するトリス(ジメチルシリル)スタンナンのトランスメタル化反応を再検討したところ、リチオ化は一段階で止まり、モノリチオスタンナンが発生していることがわかった。しかし、このモノリチオスタンナンはヨウ化メチルと反応してトリメチルスタンナンを与えた。即ち、このモノリチオスタンナンは驚くべきことにトリアニオン等価体として反応することが明らかになった。また、三塩化リンとの反応ではスズ上にリンは導入されず、トリクロロスタンナンが得られた。昨年度合成に成功したモノリチオゲルマンと三塩化リンとの反応では、スズの場合とは異なり、クロロゲルミルホスフィンが得られた。さらに、このクロロゲルミルホスフィンにカリウムt-ブトキシドを作用させると、ゲルマニウム上のアリール基がリン上に転位し、リン-ゲルマニウム間に二重結合性があって末端ゲルマニウム原子が二価であるホスファゲルマビニリデンの二量体が得られた。この反応も全く予想外のものであったが、ホスファゲルマビニリデンに至る反応過程に、初めてのリン-ゲルマニウム三重結合化合物が発生していることが示唆される。同様な反応をケイ素の系でも検討したところ、対応するクロロシリルホスフィンの合成には成功したが、これとカリウムt-ブトキシドとの反応は複雑で、生成物の同定には至らなかった。関連する研究として、スタンナントリオールがシリコーングリースと反応してケージ化合物を生成するという、極めて奇妙な反応も見い出した。
|