研究課題/領域番号 |
22350017
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
時任 宣博 京都大学, 化学研究所, 教授 (90197864)
|
キーワード | 有機元素化学 / 典型元素 / ケイ素 / π拡張分子 / 芳香族化合物 |
研究概要 |
本研究は、芳香環骨格に対して複数の高周期14族元素を導入した分子の構築とその物性解明を行い、導入元素の共同効果を明らかにするとともに、高周期元素不飽和結合の化学を物性・機能化学的要素を主眼として新たに展開することとを目的としている。しかし、本研究課題における対象化合物の骨格構築の方法論は十分に確立されておらず、その効率的合成法の開拓が当初の重要な課題である。既に我々は、芳香族置換基であるBbt基を保護基に用いて、初めての炭素置換ケイ素-ケイ素間三重結合化合物(ジシリン)の合成に成功している。ジシリンはアルキン類との反応により対応する1,2-ジシラベンゼン類を与える事を明らかにし、それらの物性解明を行った。アルキン類としてはフェニルおよびトリメチルシリル置換の末端アセチレンの他に、アセチレンガスも利用可能であり、炭素骨格上に水素置換基のみを有する誘導体の合成も可能である。異性体が生じうる系においても、3,5-置換体のみが確認され、4,5-置換体は生じなかった。X線結晶構造解析の結果、その中心骨格における炭素-炭素結合長はほぼ全て等価である点、ケイ素-ケイ素およびケイ素-炭素結合長がそれぞれ対応する単結合と二重結合の中間である点など、電子の非局在化を示す特徴的な構造を有していることが明らかとなった。また各種スペクトル測定および理論計算の結果から、ケイ素原子が二つ芳香環に組み込まれた1,2-ジシラベンゼン骨格においても、芳香族性の発現を支持する結果を得た。これらの結果は今後の含ケイ素共役系分子設計の重要な指針となると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに合成を達成した1,1'-ジシラー4,4'-ビフェニル、1,2-ジシラベンゼン類の合成によって、一つの分子内に二つのケイ素原子を導入した芳香族化合物の合成が可能であること、また複数のケイ素原子導入によって、光物性等において特徴的な性質が見られることが明らかになった。これらの結果は、目標としている含高周期14族元素縮合多環式芳香族化合物の分子設計・評価の基盤となる知見を与えたものと考えている。高周期14族元素を含む縮合多環式芳香族化合物の系に関しては、二つのケイ素原子を含むオクタヒドロアントラセン骨格の合成に成功し、現在立体保護基の導入を検討している。
|
今後の研究の推進方策 |
複数の元素縮合多環式芳香族化合物合成の達成を視野に、既に合成を達成しているジシラオクタヒドロアントラセンに対する立体保護基導入を検討する。置換基としては、Tbt(2,4,6-トリス[ビス(トリメチルシリル)メチル]フェニル)基やTip(2,4,6-トリイソプロピルフェニル)基等の導入を検討する。立体保護基導入後は既知の方法論を踏襲し、目的化合物の合成を行う。これらの性質・物性に関しては実験化学・理論化学の両面から詳細に解明し、複数ケイ素の導入効果を明確にする。実験的にはX線結晶構造解析および各種スペクトル測定(NMR、IR、Raman、電子スペクトル等)を用いて基礎化学的知見を蓄積する。
|