研究課題/領域番号 |
22350018
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森田 靖 大阪大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (70230133)
|
キーワード | 開殻有機分子 / ヘテロ原子 / 置換基効果 |
研究概要 |
本申請研究では、開殻グラフェンの部分骨格であるトリアンギュレンに三つの酸素官能基を導入したトリオキソトリアンギュレン(TOT)を基盤とする新奇機能性物質の開拓を行う。TOTに様々な置換基を導入することでその電子的、構造的物性を制御し、有機中性ラジカルを用いた新しい機能を探索する。 今年度は、TOTの三角形の頂点に3つのカルボキシル基を導入した誘導体と、tert-ブチル体に位置選択的にヒドロキシル基を導入した誘導体の合成を行った。カルボシキシル体は原料から5段階で合成でき、中性ラジカルとしては高い安定性を示した。このラジカルは難溶性であったため、置換基をエステル化したものでその電子スピン構造や酸化還元特性を評価したところ、置換基の効果によって酸化還元電位や電子スピン密度が大きな影響を受けることがわかった。ヒドロキシ体はメトシキ体の前駆体の脱メチル化を経て合成し、安定な固体として単離することが出来た。この分子についても電気化学測定や磁気共鳴スペクトルの測定を行い、化学修飾がその電子構造・物性に与える影響について調べた。 TOTが持つ高い安定性と多段階酸化還元性に着目し、tert-ブチル体や臭素体を正極活物質として用いたLiイオン二次電池の開発を行った。このラジカルを用いることによって、充放電容量がそれぞれ311、225Ahkg-1となり、従来のコバルト酸化物を用いたもの(150-170Ahkg^<-1>)よりも飛躍的に向上した。特に臭素体では、100回の充放電サイクルを行った後でも85%の放電容量が保たれていた。さらに、置換基の電子吸引性によって酸化還元電位が高電位シフトした結果、臭素体はtert-ブチル体よりも出力電圧が大きくなっており、置換基効果によって出力電圧の制御もできることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究のターゲット分子であるTOTのカルボキシル体および分子内水素結合を形成できるヒドロキシ付加体の合成に成功した。新規分子の合成は本研究課題でもっとも困難が予想される過程であり、そのステップを達成できたことは本研究を遂行する上でもっとも基礎的かつ重要な第一歩である。また、TOT誘導体を用いた高性能なLiイオン二次電池の開発に成功するなど応用面に向けた研究にも大きな進展が見られた。
|
今後の研究の推進方策 |
いずれの誘導体についても、本研究課題での目的である分子内・分子間の水素結合に基づく新機能の創出を達成するうえでもっとも基礎的な情報となる、単結晶あるいは粉末試料を用いた構造解析を行う。カルボキシル体については、結晶中での水素結合ネットワークを明らかにした後に、分子の配列や空孔の形状に応じた機能の開拓を行う。また、ヒドロキシ付加体については、溶液・固体状態での温度制御下における振動分光とESRスペクトル測定を行い、プロトンの動的挙動とそれに伴う電子スピン構造の変化について解明する。また、それ以外の置換基導入体や酸素原子位置の異なる誘導体の合成や物性についても引き続き検討を行う。
|