本研究では、開殻グラフェンの部分骨格であるトリアンギュレンに三つの酸素官能基を導入したトリオキソトリアンギュレン(TOT)を基盤とする新奇機能性物質の開拓を目指してきた。具体的には、TOTに様々な置換基を導入することでその電子的、磁気的物性を制御し、有機中性ラジカルを用いた新しい機能を探索した。 平成24年度は、TOTの三角形の頂点に3つのフェニル基やチオフェン類を導入した誘導体の合成を行った。いずれの誘導体も中性ラジカルとしては高い安定性を示した。置換基の効果によって酸化還元電位や電子スピン密度が大きな影響を受けることがわかった。導入した置換基の電子的な特徴から、置換基からTOT骨格部位に部分的に電子移動が起きた状態が観測され、量子化学計算から予想された特異な現象を見いだすことができた。 TOTが持つ高い安定性と多段階酸化還元性に着目し、これらの新規なTOT誘導体を正極活物質として用いたLiイオン二次電池の開発も検討した。その結果、デバイス化手法や導入した置換基の電子的効果によって出力電圧の制御も可能であることを明らかにした。
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