研究概要 |
本研究では,従来にない面不斉ヘテロ中員環分子に関して,構造-立体化学挙動の相関を明らかにするとともに,その光学活性体を効率的に合成するためのエナンチオ選択的合成手法の開発とそれにより得られる光学活性面不斉ヘテロ中員環分子の応用研究を目的としている.本年度は特に,下記2項目について検討し,成果を得た. ○面不斉ヘテロ環分子の不斉合成法の開発:昨年度の本研究において,不斉活性化剤として糖由来のキラルアルコキシドを用いることで,面不斉ヘテロ環分子をエナンチオ選択的に不斉合成することに初めて成功した.しかしながらその手法では不斉反応剤を等量以上必要とした.これに対して本年度は,この不斉合成法を進化させて,不斉反応剤が触媒量で足る「触媒的不斉合成法」とすることを検討した.その結果,アキラルな環化前駆体に対してキラルパラジウム触媒を作用させることで目的の環化反応が収率良く,高立体選択的に進行し,面不斉ヘテロ環分子を触媒的に不斉合成することに成功した. ○面不斉ヘテロ環分子を活用した不斉合成法の開発 適切な置換基・官能基を有する面不斉ヘテロ環分子を合成し,不斉合成素子,不斉反応剤,不斉配位子として活用することを検討した.その結果,1)不斉合成素子としての利用に関する基礎研究として,面不斉から中心性不斉への各種変換反応,特に立体特異的な渡環型反応を開発することに成功した.2)不斉合成素子としての実用として,標的化合物としてメラノコルチン受容体(MC4R)のアゴニストであるキラルペプチドを設定し,その全合成を面不斉ヘテロ環分子から行うことに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で目標としている「面不斉ヘテロ環分子の不斉合成法の開発」と「面不斉ヘテロ環分子を活用した不斉合成法の開発」について,特に含窒素ヘテロ環分子に関して良好な成果が得られた.今後はそれらの成果をもとに当該研究を更に深化,展開させるとともに,面不斉カルボニル化合物の化学を開拓する計画である.
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今後の研究の推進方策 |
○面不斉ヘテロ環分子を活用した不斉合成法の開発:適切な置換基・官能基を有する面不斉ヘテロ環分子を合成し,不斉合成素子,不斉反応剤,不斉配位子として応用展開する. ○面不斉カルボニル化合物の創製と立体化学挙動,変換反応に関する研究:面不斉を有する多様な環状カルボニル化合物の創製とその反応について精査する.具体的には,(E)-5-cyclononen-1-oneから誘導されるケトエステル類や,類似骨格を有するラクトン,ラクタム類を対象分子として検討する. ○面不斉ヘテロ環分子の汎用的触媒的不斉合成法の開発:環化前駆体とキラル遷移金属触媒について再設計・再検討し,より多様な面不斉ヘテロ環分子の不斉合成に適応可能な汎用的手法の開発を検討する.
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