本研究では、これまでの我々の研究で解明してきたπ共役オリゴマーのラジカルカチオンおよびジカチオンの電子構造およびその自己会合挙動に関する詳細な知見を基に、従来の機能性オリゴマーの設計指針には全くなかった"開殻種の自己会合の精密制御"を機能発現に積極的に活用し開発することを目的とし、今年度は以下に示す結果を得た。 (1)部分的に被覆基を施し、π系の接触が可能な部分を系統的に制御したオリゴマーを合成し、溶液中でのラジカルカチオンπダイマー形成における熱力学パラメーターを温度可変吸収スペクトルにより求めた。これらの実験から、ラジカルカチオンπダイマー形成を利用した超分子ワイヤー構築に向けて、最適なオリゴマー長と接触させるπ系の広さに関する設計指針が得られた。 (2)溶解度の向上を考慮した新たな被覆オリゴチオフェンとしてプロピレジンオキシチオフェンを用い、その両端をアルキルチオ基で保護した系を系統的に合成し、ジカチオンを発生させ、吸収スペクトルおよびESRからそのビラジカル性が発現するオリゴマー長を詳細に検証した。 (3)ベンゾ縮環により平面性を固定したオリゴチオフェンとメチルピロールを組み合わせ、正電荷の注入に伴うキノイド構造への変化において、ピロールのメチル基と隣接するチオフェンのアルキル基との立体反発から通常安定であるトランス体が不利になり、全てシソイドのコンフォマーが安定化する化合物を設計・合成し、ベンゾジチオフェン骨格の挿入がπ共役オリゴマーのジカチオン種のビラジカル性を強めるということを新たに見出した。
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