研究概要 |
昨年度の研究においては、五員環アレン錯体の直接的な合成方法の開発と、生成した五員環アレンとカルボニル化合物との反応について明らかにした。本年度は、原料である1,3-エンインが、必ずしも安定な五員環構造をとらなくても同様の反応を実現できるのではないかと考え、η^2-配位形式をとる1,3-エンインとケトンとの反応を検討した。その結果中間体として五員環アレンを形成したと同様の反応生成物を与えることがわかった。しかしながら加水分解後のアルコールの構造はエンインの置換基に依存しており、今後は加水分解反応の検討が必要であることが示唆された。また、種々の[5]クムレン化合物を合成し、ジルコノセン錯体との反応を試みた。クムレンの末端置換基を5員環、6員環、7員環と変えて環状アルキン錯体を合成し、トリメチルホスフィンを加えた結果、置換基の嵩高さのわずかな違いが錯体のハプトトロピックな反応性に著しい差が表れることが明らかとなった。即ち、5,6員環では環状アルキンがより安定であるのに対し、7員環の場合のみ開環が起こりη^2-配位錯体を与えた。これらは鎖状配位子のハプトトロピックな挙動に関する新たな知見である。また、種々のアルキニルイミンを合成し、根岸試薬との反応を試み、五員環アレンの複素環化合物が生成することを分光学的に確認した。さらに、1,3-エンインとアルキン錯体の反応により、7員環アレン化合物の合成にも成功した。この分子は環中に単独の二重結合と、アレン部位を持つ高度に不飽和な構造を有する点で非常に興味深い。
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