研究概要 |
(1)ヒドリド(ヒドロゲルミレン)タングステン錯体からの脱水素によるゲルミリン錯体生成機構の解明昨年度発見した標記反応について,詳細な実験的並びに理論的研究を行い,反応機構を解明した。すなわち,この反応はゲルミレン錯体とイソシアナートからのW-Ge-O-C-N五員環を持つキレート錯体の生成と,それに続くホルムアミドの脱離を経由して進行する。このうち後者の過程は,タングステンからの窒素配位部位の解離と,その窒素へゲルマニウム上の水素がタングステン上を経由して移動する過程を含んでいることが,速度論的研究およびDFT計算により明らかになった。この研究は,前例のない反応を経由する新しいゲルミリン錯体の合成法の発見として,高い重要性を持つ。 (2)ヒドリド(シリレン)タングステン錯体の新規合成およびそれを用いたケトンとの反応の機構解明ヒドリド(ヒドロシリレン)タングステン錯体はケトンと反応して,主にヒドロシリル化生成物を与えることが分かっている。この反応において,ケトンのカルボニル炭素上へ移動する水素はケイ素上のものか,それともタングステン上のものかを明らかにするために,ケイ素上に水素を持たないヒドリド(シリレン)錯体を新たに合成し,それを用いてケトンとの反応を行った。その結果,ケトンのヒドロシリル化を経由したと考えられる生成物が主生成物として得られたことから,カルボニル炭素上へ移動した水素はタングステン上のヒドリドである可能性が高いことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年3月の東日本大震災により研究室がほぼ壊滅状態となり,その後ほぼ8カ月間ほとんど研究ができなかった。また,それまでに合成した錯体や化合物の大部分が大震災によって失われ,再合成する必要があった。これらの理由により,研究は当初の予定よりも大幅に遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
当研究室は,東日本大震災後しばらくの間,他部局等に間借りしていたが,昨年11月に新築されたプレハブ実験棟に引っ越して再度一体となり,現在不完全ながら研究が進展し始めている。平成24年度は,前年度達成できなかった研究も含めて達成できるよう鋭意努力する所存である。研究計画や研究方針に本質的な変更はない。
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