研究概要 |
本研究では,鉄あるいは銅酵素であるメタンモノオキシゲナーゼ(MMO: nCu, 2Fe)やトルエンモノオキシゲナーゼ(TMO: 2Fe)などの機能モデルの創製を目的とし,炭化水素の水素原子引き抜き反応と芳香族の親電子的反応による水酸化反応を(μ-peroxo)二核鉄(III),二核銅(II)錯体および高原子価bis(μ-oxo)二核ニッケル(III)錯体を用いて調べた。 前年度に継続して(μ-peroxo)二核鉄(III)による外部基質の酸化反応性と反応機構の解明を行った。特に立体的にかさ高いメチル基で架橋ペルオキソ基を保護した(μ-peroxo)二核鉄(III)錯体([Fe2(O2)(L1)(RCO2)]2+)は,様々な外部基質を酸化し,その酸化反応速度の対数とC-H結合解離エネルギー(BDE)との間に良好な直線関係があることを見いだした。しかし,立体的に嵩高いトリフェニルメタン(BDE = 82 kcal mol-1)はほとんど酸化されず,本ペルオキソ錯体は,基質の大きさを識別する基質選択性を持つことが明らかとなった。さらに,キシリル架橋基を持つ二核化配位子(L2)のbis(μ-hydroxo)Ni(II)2と過酸化水素との反応で得られる高原子価bis(μ-oxo)ニッケル(III)錯体により,配位子に組込んだキシリル基の親電子的水酸化反応に加え,BDEが82 - 89 kcal moll-1を持つ様々な外部基質の水素引抜き反応による酸化反応にも初めて成功した。また,oxy-MMOモデル錯体のnuclear resonance vibrational spectroscopyによりMMOなどの二核鉄ペルオキソ種の鉄(III)イオンまわりの構造に関する知見が得られた。
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