これまでの研究で解明した軸配位子が鉄4価オキソポルフィリンπカチオンラジカル(compound-I)錯体の反応性を制御する機構が、ヘムの配位子効果に対して適応できるかをヘムの電子吸引性効果を利用して検証した。ヘムのメソ位の置換基を2-クロロ-6-メチルフェニル基、2,6-ジクロロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基に変化させ、それぞれからcompound-I錯体を合成した。シクロオクテンとの反応性を調べた結果、エポキシ化反応の反応性が電子吸引性の増加に伴い著しく増加することがわかった。さらにテトラリンの水酸化反応を検討した結果、水酸化反応もエポキシ化反応同様に反応性が増加することが明らかとなった。ところが生成する水酸化生成物を分析すると、電子吸引性の増加に伴い反応部位がベンジル位からフェニル位に変化するという興味深い結果を得ることができた。反応性の上昇機構を解明するため、compound-I錯体と鉄3価ヘム錯体の酸化電位を調べた。その結果、軸配位子の場合と異なり、ヘムの電子吸引性効果はcompound-I錯体と鉄3価ヘム錯体の両状態ともに変化させることが明らかとなった。この結果は、ヘムの反応性に及ぼす機構が軸配位子の場合と異なることを示唆した。 マンガンサレン錯体に対する酸化剤の効果も研究した。ヨードソアレンの芳香環の電子吸引性効果や立体的効果が反応性に及ぼす効果を様々なヨードソアレンを合成し研究した。また、ヨードソアレン付加体の対アニオンが反応性に及ぼす効果も安息香酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオンなどを用いて研究した。その結果、ヨードソアレンの芳香環の電子吸引性の増加や対アニオンのpK値の低下により反応性が増加することが明らかとなった。他の酸化剤としてメタクロロ過安息香酸や次亜塩素酸についても検討を行った。
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