研究概要 |
本年度は、フェムト秒時間分解蛍光測定システムについて最適化を行い、現有の顕微分光システムを組み合わせることを目的とした。フェムト秒時間分解蛍光分光法の一つである和周波発生法については、萌芽研究などによって製作したシステムを改良し信号雑音比を向上させた。昨年度見出した細胞内自家蛍光成分の一つであるFADの蛍光ダイナミクスの媒質依存性について,和周波発生法を用いて詳細に検討を行った。FADの開環型に由来するナノ秒領域の蛍光寿命は媒質の粘性に依存するのに対し,閉環型に由来するピコ秒領域の蛍光寿命成分は,粘性には大きく依存せず,媒質の誘電率と線形に近い関係であることがわかった。細胞内のFADのピコ秒蛍光寿命を用いることによって,細胞内の誘電情報が得られることを提案した。また顕微観察用に酵母の培養を行い,予備実験として酵母細胞内に存在するNADHのフェムト秒蛍光ダイナミクスについて検討した。細胞内のNADHの蛍光減衰にピコ秒領域で減少する成分が存在することが示唆され,このようなピコ秒成分の減衰は緩衝溶液中のNADHでは観測されなかった。詳細については検討中であるが,ピコ秒成分の減衰は,酵母の細胞内環境を反映する一つのパラメーターになると考えている。現在,蛍光和周波発生システムと現有のステージスキャン型の顕微分光システムとを組み合わせる作業を行っている。また,高感度CCD検出器を新たに購入し,顕微分光システムとの組み合わせを行っかた。和周波発生法のみではなく,共同利用施設であるフェムト秒レーザー再生増幅システムを用いたカーシャッター法と組み合わせることを予定している。
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