神経細胞や心筋細胞における、膜電位の伝播や同期に及ぼすバルク伝導や界面反応の関与を明らかにするために、人工液膜系を用いて複数の電位振動間の伝播や同期を実現した。水相 (W1) 、有機相 (O) 、水相 (W2) からなる 3 相液膜系を 2 つ連結して、2 つの膜電位振動系の間の距離と同期の成否の関係を詳細に調査した。2つの液膜系が一定の距離より近いとき、両者は同期することが分かった。同期した電位パルス間の時間差を10 msのサンプリング時間で計測したところ、一方の電位パルスから他方の電位パルスへ約30 cm/sの速さで伝播していることがわかった。界面近傍のみを遮蔽したところ、約10~20倍の速さで伝播し、界面伝播とバルク伝播の競合が明らかになった。 さらに、同期した2つのパルスの自律性に注目した。先行パルスが自律的に振動しているのが自明であるのに対して、伝播により生じた後発パルスが自律的か否かは不明であった。周期の異なる2つの振動系の相関を調べた結果、外見上同期しているパルスであっても、周期の差が大きいと自律性を失い、引き込みが生じていることが分かった。この結果は、伝播による同期現象に本質的差異が存在することを示唆した。 また、直線上にある3つの液膜系での伝播を調査し、振動の自律性と振幅の減衰の関係について調査した。3つの液膜系において振動系と非振動系を組み合わせた結果、振動系は電位パルスの伝播を抑制する方向に、非振動系は伝播を促進する方向に働くことが分った。これは、神経伝達において不活性部位とされる髄鞘が電位パルスの伝達を速めることと深く関係していると考えられる。
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