研究課題/領域番号 |
22350035
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
原田 明 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (90222231)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 分析科学 / 1分子計測 / 非蛍光性化学種 / 紫外レーザー分光 / 光熱変換 / ミクロ液体クロマトグラフィー / ヘテロダイン計測 / 多環芳香族 |
研究概要 |
本研究では、溶液中非蛍光性化学種の無標識・超高感度・分離検出法の最終形として、“213nm深紫外励起・多色増幅型光熱変換効果の顕微ヘテロダイン干渉検出”と“親水性相互作用ミクロ液体クロマトグラフィー”との組み合わせから構成される新規装置を開発している。4年計画の第3年度である本年度には計画に掲げた次の4つポイント、全てを検討した:(I)ミクロ液体クロマトグラフィー/深紫外励起・多色増幅型光熱変換計測系の改良、(II)分子計数条件の理論的検討と最適装置の設計指針の提示、(III)溶液中アミノ酸等の無標識単一分子カウンティングの実証、(IV)溶液中アミノ酸・核酸塩基等の無標識・超高感度分離分析の実現。 本研究の成否を決定づける項目(I)について、課題は残るものの、導入済みのアコースティックエンクロージェーの性能をフルに活かした計測システムを構築し、微量液体中化学種の高感度光熱変換検出可能とした。特に、屈折率変化の高精度計測のためヘテロダイン干渉計とミクロ流路系液体セルを結合しての光熱変換信号検出に初めて成功しており、装置としてはほぼ完成した。一方、高感度化の実現に伴い、分離溶媒であるアセトニトリルの2光子吸収が問題となることが新たに見いだされ、対応策の検討を始めている。この分離溶媒による2光子吸収が項目(III)を検討する上での深刻な制約となっており、現有のフェムト秒パルス紫外レーザー光を用いる限りでは、高感度化に限界がある可能性が示唆されている。集光を緩める、パルス幅をのばす工夫などでどこまで対応が可能かが新たな課題となっている。項目(II)(III)については、検討を継続して、データの集積と再現性の確認を進めた。特に、生体関連アミノ酸全20種類の無標識・同時分離条件を確認し、この目的に対してより高性能を発揮する分離カラムの選定に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各種化学種の分離検出条件は着実に決定・確認できており、分光特性データの収集も着実に進んでいる。微量流体中の化学種を検出対象とした計測においても、初期の計画を越えた検出感度が実現できる可能性を新に見いだしており、無標識超高感度分離検出最終形を完成させるという目的に向けては、計画以上に進展していると考える。ただし、現有の紫外レーザー光源装置の特性が、高感度計測の目的にそぐわない点が顕在化した。すなわち、光源がフェムト秒パルス光であることが分離溶媒として不可欠なアセトニトリルの2光子吸収によるバックグラウンド信号を不必要に増加させことが判明している。いくつかの対応策が可能であり、また、少なくとも現有設備による高感度化の限界点の見極め、および、最適光源を用いた場合の性能予想は可能である。以上総合して、研究は概ね順調に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
分離溶媒として不可欠なアセトニトリルの2光子吸収によるバックグラウンド信号を軽減させることが、高感度実現のための最大のポイントとなっている。原理的に、連続発振レーザーを用いることで問題を解消できることは明快であるが、紫外域で発振する連続発信するレーザーに利用勝手の良いものは無い。原因が明確であり、対応策も、集光を緩めることと光パルス幅を伸ばすことと明らかであるので、現有設備を用いて検討を進める。特に、試料セルへの励起光の入射状態が長期安定性に影響を持つこともわかっており、光パルス幅をのばす効果がある光ファイバ-の利用が、2つの問題を同時に改善させる可能性がある。これに成功すれば、装置としては当初計画より一歩先に進んだものにできると期待される。
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