平成22年度は、細胞内への抗がん剤取り込み挙動に対する多剤耐性タンパク質の効果について検討した。まず、アントラサイクリン系抗がん剤の分離条件に関する検討を行った。その結果、デオキシコール酸ナトリウムとシクロデキストリン誘導体を添加した泳動溶液を用いるとき、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ドウノルビシンの相互分離が可能であることを見出した。ついで、この分離法を利用して、アントラサイクリン系抗がん剤のがん細胞への取り込み挙動を評価した。アントラサイクリン系抗がん剤を細胞に作用させると、4~6時間程度までは、細胞内の抗がん剤濃度が上昇するが、その後、がん細胞は抗がん剤を排出し、細胞内濃度を減少させた。この抗がん剤の排出機構は細胞膜に存在する多剤耐性タンパク質によるものであると推察された。そこで多剤耐性タンパク質の阻害剤を細胞培養液に添加し、抗がん剤の細胞への取り込み挙動を評価したところ、6時間以降でも細胞内の抗がん剤濃度の増加が観測された。この結果は、阻害剤を活用することで、がん細胞への抗がん剤の取り込みを促進することができることを示唆している。そこでさらに、抗原抗体反応を利用する多剤耐性タンパク質の定量法を開発した。多剤耐性タンパク質であるMRP1の抗体を蛍光標識し、これと細胞溶解液を反応させ、細胞内の多剤耐性タンパク質を定量する方法を開発した。この方法を用いて、抗がん剤で処理した細胞内のMRPIを定量したところ、細胞内でのMRP1発現量が増加していることがわかった。一方、先に開発したポストカラム誘導体化・レーザー励起蛍光検出法を細胞内のタンパク質計測に応用した。その結果、細胞内からは多くのタンパク質が検出され、この方法は細胞内の主要タンパク質の測定に有用であることが示唆された。
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