我々の研究室で開発した高効率脱水縮合反応はエステル、ラクトン、アミドならびにペプチド類を容易に与える実用性の高い手段として認知されるに至っている。本手法で用いる触媒をキラル分子とすることで不斉合成への展開が図れ、これまで酵素反応でも実現の難しかったラセミカルボン酸の速度論的光学分割、ならびに酵素反応の独壇場であったラセミアルコールの速度論的光学分割を人工的に行うことも可能になると考えられる。本申請研究においては下記3項目に焦点を当てて研究を遂行する。(i)選択的にカルボン酸と反応する脱水縮合剤の適切な構造を探索する。(ii)高エナンチオ選択性を与える触媒構造の精査を行う。(iii)化学選択性ならびに立体選択性の発現に求められるアキラルな求核剤ならびに求電子剤の構造最適化を行う。 本年度は2系統の速度論的光学分割法(ラセミアルコールの不斉分割ならびにラセミカルボン酸の不斉分割)の各々についてパラメーターの最適化を図る予定であったが、前者の反応において非常に高い一般性が示されたことから基質適用性が大きく広がることになったので、本研究課題(ラセミアルコールの不斉分割)については平成22年度に繰り越してさらに詳細を検討した。その結果、(i)用いる縮合剤をPMBA(p-メトキシ安息香酸無水物)から脂肪酸無水物に変更したところ化学選択性の向上が達成された。(ii)ラセミアルコールの不斉分割に使用するアキラルカルボン酸の構造最適化をこころみ、ジフェニル酢酸が最も適したカルボキシル基のドナーとなることを明らかとした。(iii)さらに反応の遷移状態の解明も試み、エナンチオマー間の反応速度の差を密度汎関数法により決定することができた。これらの研究成果は学術論文として報告に至っている。
|