社会問題になっている疾病(がんや生活習慣病)に効果が期待される化合物のうち、未だに合成されていない複雑な構造を持つ化合物を対象として全合成研究を行った。 酸化段階の異なる四環式化合物が連なった構造を持つ八環式化合物hibarimicin類の合成研究においては、これまで四環式化合物を合成した際に用いたチオラクトンの二量体を合成することによって、軸不斉と酸化段階を調整したチオラクトン擬二量体を合成し、この両方のチオラクトン部にアニオンを発生させ、糖由来のデカリン骨格を持つエノンとMichael-Dieckmnn型付加環化反応させることにより、一挙に八環式骨格へと導いた。さらに変換を進めて、保護基の付いたhibarimicinoneを合成した。中性脂肪鎖合成酵素阻害物質epi-cochlioquinone Aの合成研究においては、ニトロアルケンを用いる光学活性なシクロヘキセノンの構築法を開発するとともに、自己酸化還元触媒反応を発見してo-aminophenolからcatecholへの一工程変換を実現した。さらに糖誘導体からオキサデカリン化合物へと導く有効な経路を築いた。また、五環式化合物XR-774の合成研究においては、異なるテトラヒドロナフタレン環を連結した化合物のに対してNiを用いた5員環形成反応を行うことによって五環式骨格を構築し、ラセミ体の全合成を達成した。5-6-7-5員環が連なる四環式骨格をもつtetrapetalone Aについては、5-6員環部ともう一方の5員環部の構築法を確立した。五環式化合物xanthofulvinについては、左右のユニットを連結させて炭素数を整えた。また。球状骨格を持つherquline Aについては、生合成類似のチロシン二量化経路は困難であることがわかったので、官能基化された6員環同志をつなぎ合わせる経路をとることとした。
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