研究概要 |
D-4-ヒドロキシフェニルグリシンより合成されるアミド基含有ポリ(m-フェニレンエチニレン-p-フェニレンエチニレン)は,非極性溶媒中でらせん構造を形成する。平成23年度には,側鎖にメタセシス重合部位を有する新規なポリ(m-フェニレンエチニレンーp-フェニレンエチニレン)の合成と,側鎖上でのメタセシス重合による高次構造の安定化について検討した。ノルボルネン基またはジエン基を有する3,5-ジヨード-4-ヒドロキシフェニルグリシン誘導体と1,4-ジエチニルベンゼンを薗頭カップリング重合させ,対応するポリマーを得た。さらにこれらのポリマーの側鎖上でのメタセシス重合を行い,側鎖架橋したポリマーを得た。架橋後のポリマーの分子量は架橋前のポリマーよりもわずかに小さくなり,GPC溶出曲線の形状はほとんど変化していなかった。分子内架橋反応が選択的に進行したと推測される。架橋前のポリマーはTHF中で主鎖の吸収領域に明確な正負の分裂型コットン効果を示したことから.片方向巻き優先のらせん構造を形成していると考えられる。これに対して,ノルボルネン含有の架橋前のポリマーはDMFおよびDMSO中ではほとんどコットン効果を示さず,ジエン含有の架橋前のポリマーのDMF中でのコットン効果の強度はTHF中に比べて小さかった。また,ノルボルネン含有の架橋後のポリマーはTHF,DMFおよびDMSO中いずれにおいても,同程度の強度のコットン効果を示した。これは,同ポリマーが溶媒によらず安定な片方向巻き優先のらせん構造を形成していることを示唆するものであり,THF中での高次構造が側鎖の架橋により安定化されたと考えられる。ジエン含有ポリマー架橋後のDMF中でのコットン効果の強度は架橋前よりも増大した。側鎖の1,6-ヘプタジエン部位のメタセシス反応により,らせん構造が安定化されたと推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つである,らせん内部構造の活用においては,コンフォメーションの安定化が肝要である。今年度は,高分子側鎖のメタセシス反応を活用する架橋反応により,各種溶媒中で安定ならせん構造を維持可能な高分子の合成に成功した。研究の進捗状況は良好である。
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今後の研究の推進方策 |
平成22,23年度に得られた研究成果をフィードバックして,より精密な二次構造を有するポリフェニレン誘導体の合成に向けて分子設計を行い,さらなる新規モノマー合成,重合,生成高分子の評価を行う。具体的には,1)新たなポリフェニレンエチニレン誘導体の合成,2)生成ポリマーの高次構造解析,3)生成ポリマーの光・電気機能の評価,4)生成ポリマーと低分子化合物との相互作用がもたらす高次構造変化の検討,5)生成ポリマーの不斉認識能の検討,6)他の高分子との錯体形成の検討の5項目を推進する。
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