研究概要 |
ポリーN-イソプロピルアクリルアミド(PNIPA)水溶液の昇温にともなう白濁現象の原因を明らかにするため,平成22年度は,末端に親水性基(イオン性解離基)を持つ試料に関する3段階の研究を計画していたが,それぞれの成果は以下の通りである (1) レドックス系開始剤を用いたPNIPAのラジカル重合および分別精製 末端に親水性のスルホン酸基を持ち,立体規則度を表すラセモ分率f_rが0.53ないし0.54の原試料を合成し,それを分別精製することにより重量平均分子量M_w,が約10万から約250万の9試料を得た.いずれの試料についても,分子量分布の指標となるM_wと数平均分子量M_nの比M_w/M_nは1.2ないし1.3であり,特性解析を行うための要求を十分満たしている (2) レドックス系開始剤を用いてラジカル重合したPNIPAの特性解析 (1)で得られたPNIPA測定試料のメタノール溶液について,25.0℃における光散乱および粘度測定を行い,M_w,平均二乗回転半径,第2ビリアル係数,固有粘度を決定した.それらの物理量の解析から試料の分枝の程度を調べた (3) レドックス系開始剤を用いてラジカル重合したPNIPA水溶液の相挙動に関する研究 M_wが1.04×10^5, 1.86×10^5の2試料について,その水溶液が白濁し始める温度(曇点)を重量濃度が10%以下の範囲で決定した.これまでに研究した疎水性末端基を持つPNIPA水溶液の曇点がM_wの増加とともに上昇したのとは逆に,今回の結果では下降し,高分子溶液の熱力学理論の予測と一致した.以前の結果が理論予測に反したのは,疎水性末端基の影響によることを明らかにした.M_wが10^5以上の高分子量領域においても,水溶液の曇点挙動が末端基に左右されるという結果は,これまで誰も予想しなかったことであり,高分子水溶液の相挙動解明に新しくかつ重要な知見を提供した
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