研究概要 |
疎水化ポリエチレングルコールは,体温付近でゾルゲル転移を示し,この性質を利用したインジェクタブル人工硝子体のin vivo評価を行った。疎水化ポリエチレングルコールは,分子量5000,片末端をオクタデシル基で修飾したE5KMC18を高純度で合成し,評価に用いた。E5KMC18は,温度変化に対して可逆的にゾルーゲル転移を示し,低温でゲル状態,高温でゾル状態であった。さらに小角中性散乱およびレオロジー測定により,微視的構造,力学特性の詳細な検討を行った。また,高分子水溶液には細胞毒性は認められなかった。重量濃度35%のE5KCM18をオートクレーブで滅菌しサンプルとした。有色家兎10羽10眼の硝子体切除後ゲルを十分に注入し,術後1週,4週,3ヶ月目に蛋白濃度,前眼部,眼底検査を行った。網膜電図は術前と術後3ヶ月に測定しa波とb波の振幅を比較した。対照は硝子体切除のみを行った有色家兎5羽5眼である。術後3ヶ月目に眼球摘出,病理学的評価を行った。裂孔閉鎖効果は摘出豚眼を半割しゲルで剥離網膜を覆いその後還流液で浸しその透過性から判定した。全例で前眼部,眼底に異常所見を認めなかった。眼圧は1眼のみ術後1週で軽度上昇が見られたが,それ以外は術前とほぼ同じ眼圧を保った。前房蛋白濃度は術後1週で全例軽度上昇が見られたがすべての症例で対照と変わらず術後1ヶ月で術前の値に復した。網膜電図での振幅の比較では全例術前と比べて80%以上であり網膜機能は低下していないと考えられた。透過型電子顕微鏡,光学顕微鏡での網膜,硝子体との界面では問題となる所見を認めなかった。少なくとも3ヶ月は硝子体内で存在していることを巨視的に確認した。手術時の操作性は良好であった。また水の透過性から見て裂孔閉鎖効果を認めた。E5KC-18は硝子体手術材料として有用であり,今後さらに蟹喰い猿で評価を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成22年度の結果をふまえ,液状化した硝子体を置換する「硝子体代替物」の分子設計,合成,特性解析,物性検討および合成ゲルの細胞毒性に関する検討を全て実施することが出来た。さらに白色家兎へのインプラントを行い,術後約半年に及ぶ経過観察,さらに病理検討を実施することが出来た。この成果は,招待講演を含む国内外の学会での口頭発表,さらにアメリカ化学会,王立科学会の専門誌に発表することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
22年度,23年度の成果をもとに,より人間に近い「蟹喰い猿」へのインプラントを実施すると共に,白色家兎を用いた,人工的に作り出した「加齢」と同様の状態の硝子体を用いて,動的光散乱を用いた硝子体の物性変化のリアルタイム観察法を確立し,その知見を臨床に活かすことに挑戦する。さらに,より化学的に安定な「新規硝子体代替物」の分子設計,合成,特性解析,物性検討および合成ゲルの細胞毒性に関する検討を実施する。さらに,「新規硝子体代替物」の白色家兎へのインプラントと,術後経過観察,病理検討を実施する。
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