臨床的に観察される加齢(Aging),疾病による眼内環境の変化による硝子体の液状化および収縮の進行について,マイクロレオロジーを用いた局所物性の観測から,非繊維状のIX型コラーゲンによる繊維状のII型コラーゲンの架橋構造の不安定化であることを明らかにしつつある(成果の一部はRSC専門誌Soft Matterに発表)。さらに本研究では,「タンポナーデ効果を有する人工硝子体の開発」および「調節機能を有する人工水晶体の開発」に関連する派生的な成果があり,それぞれBiomacromolecules誌,Soft Matter誌で報告を行った。後者は,高分子のゾルゲル転移現象を利用して,ゾル状態で嚢内に注入された高分子水溶液が,体温で直ちにゲル化するインジェクタブルゲルであり,人工水晶体開発の新たなブレイクスルーとして高く評価され,王立化学会会員誌(Chemistry World)およびHPにハイライトされた。 また,力学的測定により,硝子体ゲルネットワークと水の間の摩擦係数を測定することに世界で初めて成功した。さらに,動的光散乱により子体ゲルのダイナミクスについて検討を行い,生理条件下における硝子体ゲルの相転移を世界で初めて観測した。疾病により引き起こされる硝子体ゲルの様々な変化の物理化学的原理の追求には,より詳細な分子論的検討が必要ではあるが,本研究は硝子体ゲルの構造および動的性質に対して,新たな光を与えたものと高く評価されている。
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