研究概要 |
本研究課題では、遷移金属錯体を対象に光・スピン・電荷の相乗効果による協奏的物性現象の開拓的研究を体系的に行うことを目的としている。昨年度は、下記に示す研究を推進してきた。(1)配位子場がスピンクロスオーバー領域にある非対称配位子mto(=C_2O_3S)を架橋とする集積型金属錯体A【M^<II>Fe^<III>(mto)_3】(A=(C_nH_<2n+1>) _4N,Ph_4P,M=Mn,Fe,Ni,Zn)を合成し、Fe^<III>サイトの速いスピン平衡およびこれと連鎖して起こる電荷揺動,多段階磁気相転移などの協奏的物性現象を磁気測定、誘電応答、メスバウアー分光法、ミューオンスピン分光法により詳細に調べた。(2)固体中で光異性化を起こす新しいアニオン性スピロピランを合成することに初めて成功し、このスピロピランが溶液中及びKBr希釈した固体中でも光異性化することを実証した。室温固体中で光異性化するアニオン性スピロピランは初めての報告である。この新たに開発したアニオン性スピロピランを対イオンに用いることで、スピンクロスオーバー錯体をはじめ多くのカチオン性遷移金属錯体と光異性化分子を組み合わせた分子設計が可能となった。(3)スピン転移温度がpHに依存する室温スピンクロスオーバー鉄錯体[Fe(II){(NH_2)_2sar}](sar=1,8-diamino-3,6,10,13,16,19-hexaazabicyclo[6,6,6]icosane)をイオン交換膜Nfionのナノ空間反応場で合成し、この透明スピンクロスオーバー鉄錯体膜に電圧を印加することによりプロトンの濃度勾配を発現させ、低スピン状態と高スピン状態の時空間制御を行い、低スピン状態と高スピン状態の膜の色の変化を利用してプロトンの流れを可視化することに世界で初めて成功した。
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