研究課題/領域番号 |
22350058
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
伊藤 繁和 東京工業大学, 大学院・理工学研究科, 准教授 (00312538)
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キーワード | 電気・磁気的機能 / 電気化学 / 超分子 / 有機元素化学 |
研究概要 |
1.ビフェニル骨格およびジフェニルエーテル構造を連結部位として用い、二つの電子供与性一重項ビラジカル部位を連結したビス(ビラジカル)誘導体の酸化状態を紫外可視分光法によって解析した。まず、電気化学測定において空間的なビラジカルユニット間相互作用が観測されたビス(ビラジカル)を化学酸化によって一電子酸化したところ、特徴的な光吸収が可視部に観測された。このことは、二つのビラジカルユニット間相互作用によって数kcal/mol安定化されたカチオンラジカル状態からのユニークな電荷移動現象等が発現していることを示唆している。これに対して、相互作用を示さないビス(ビラジカル)の化学酸化では、単一のビラジカルユニットを有する誘導体から発生させたカチオンラジカルとほぼ同じ光吸収特性が観測されたことから、この場合には、前述の安定化されたカチオンラジカル状態をほとんど発生させない、すなわちほぼ独立に振る舞う二つのビラジカルユニットの電子状態が反映されていると考えられる。 2.ジフェニルエーテル構造は、エーテル酸素の存在によって反応可能なスペースを確保しやすいために複数個のビラジカルユニットを比較的導入しやすい一方で、合成したオリゴ(ビラジカル)では十分に空間的相互作用を発現させることができる連結構造でもあることから、多くのビラジカルユニットを連結する場合に有用と考えられる。本研究では、ジフェニルエーテルをさらにエーテル結合で連結することでテトラアリール構造を持つリンカーを新規に開発することに成功した。さらに、このリンカーを用いてこれまでに例のない4個のビラジカルユニットを集積した線型タイプのテトラ(ビラジカル)の合成検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2年目にあたる平成23年度では、これまでに見出している空間経由のビラジカル間相互作用による物性の変化を光吸収特性の検討によって明らかにすることができた。検討の過程において、一電子酸化状態が思った以上に不安定で、安定な酸化状態を与える分子設計の必要性が生じている。一方、分子量が700程度のビラジカルユニットをリボン状に4つ連結するという、これまでに例のない巨大分子の合成研究に展開することができており、特異分子化学に立脚した新たな機能性物質の創製が期待できる成果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
一重項ビラジカルユニットを集積する手法としてこれまでは、過去の知見を踏まえた、共有結合による連結を基本としていたが、今後は、より効率良くサイズの大きなビラジカル構造を集積化できる方法を開拓する必要があると考えられる。最近我々は、分子間相互作用を用いても伝導経路を形成するような分子集積化が可能であることを示唆する実験結果を得ており、この知見を踏まえた超分子化学的なアプローチをも取り入れていく予定である。また、電子機能化に必要な電子移動操作を行っても安定な誘導体の設計を念頭に置いた検討を積極的に進める計画である。
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