研究課題/領域番号 |
22350059
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
石田 尚行 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (00232306)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 分子性磁性体 / 集積型金属錯体 / 超分子科学 / 単分子磁石 / 高スピン分子 / 相転移 |
研究概要 |
今後のエレクトロニクス、スピントロニクスの発展のためには、分子を基調とする新規磁性体の中からメモリー、表示材料、磁気抵抗、マルチフェロイクスなどの複合機能性材料への応用発展性を示すことが重要である。一方で分子性材料に、「分子性物質/有機材料ならでは」という性質の導入も必要である。本課題ではこのような複合スピン系に、柔軟性、加工性、反応性、光吸収などの有機由来・分子由来の機能を導入した。 1.サーモクロミック有機磁性体:基底三重項ビラジカル (bpbn) の一連化合物群が、逐次構造相転移を示し、反磁性からS = 1/2常磁性、続いてS = 1常磁性となることを明らかにしている。反磁性相は薄いオレンジ色、常磁性相は濃赤色である。この一つの誘導体で、ビラジカルであるにも関わらず幅広い温度領域でS = 1/2常磁性を示すものを見いだした。この誘導体の中からS = 1/2常磁性のさらに半分のスピン量を示す新しい相を見いだした。 2.分子包接誘起磁性体、磁気検出型イオンセンサー:ラジカル置換のホスト・配位子分子を合成開発した。金属イオンの有無に従って、開いた構造から閉じた構造に変化する。このような構造変化を利用して、ビラジカルホスト分子が基底三重項から基底一重項へスイッチする例を見いだした。 3.有機ラジカル配位磁性材料:これまでに4f-3d 系単分子磁石を合成開発し、高周波 ESR を用いて 4f-3d 間交換相互作用を決定して研究を進めてきた。今回新たに有機ラジカルと希土類からなるヘテロスピン系を合成開発した。4f-2p系はこれまで類例が少ない。有機ラジカル配位の希土類錯体において、4f-2p 交換相互作用にも原子番号依存性が示された。さらに、構造パラメーターと磁気カップリング定数との間に良好な相関を描くことができた。これらは希土類元素の理解に大きく貢献するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁化率の変化を伴う相転移物質の開発を主眼におき、2pスピン系や3dスピン系では順調に合成開発が進められている。さらに発展的課題として、磁気カップリングの元素依存性や構造依存性について重要な知見を得ることができた。構造相転移を導入して、磁気的相互作用の変化する温度領域を室温付近に高めることにおいては一定の成果が得得られた。エレクトロニクスへの応用は、室温動作が基本となるからである。また、ホストゲスト化学の導入も一定の成果をおさめた。これは特定のゲストイオンの検出試薬となる分析化学上の成果と見ることもできる。
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今後の研究の推進方策 |
我々の研究グループは、中規模の測定装置には恵まれている。超伝導量子干渉磁束計には光反応用のアタッチメントが用意されている。これは従来無機化合物の光誘起励起スピン状態捕捉の実験に使ってきたが、有機化合物の光反応にも同様に適用可能である。しかし現在のところ、光反応の磁性材料の応用の面で研究上の停滞が見られる。有機骨格を用いた研究は、錯化学におけるスピンクロスオーバーほど実例が多くない。しかし、有機化合物は軽量かつ加工性に優位な点があり、ここに注力して研究展開を期待したい。
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