結晶中で起きるフォトクロミック反応を利用すれば、結晶をメカニカルに動かすことができることを、アゾベンゼン、サリチリデンアニリンなどの代表的なフォトクロミック化合物について明らかにしてきた。今年度は新たに、アントリルメチレンインダノン結晶は、光照射によって屈曲することを見いだした。このような光屈曲は微結晶で観察されることが多いが、トランス体結晶については、バルクの単結晶でも屈曲することがわかった。結晶のメカニカル機能の発現機構を解明するために、10μm程度の微小結晶を用いて光照射時間を変えてX線結晶構造解析を行ったところ、成長方向であるa軸の長さが増加したことがわかった。その結果、結晶が光で屈曲する理由は、光の当たった結晶表面は異性化反応が進行して少し伸びるかあるいは縮むが、光の当たらない裏面は最初と変わらないためであることが確定できた。メチル基を導入したトランス体アントリルメチレンインダノンの粉末結晶に紫外光照射を行うと、吸収スペクトルは長波長側にシフトした。次に、トランス体板状微結晶に紫外光照射を行うと、微結晶は光源とは逆方向に屈曲することがわかった。 また、この光屈曲は、メチル基を含まない結晶に比べ非常に速かった。X線結晶構造解析により、この結晶の密度は0.934g/cm^3と小さく、結晶中で広い空間が存在することがわかった。このため、トランス体からシス体への光異性化が起こりやすく、素早い光屈曲を示したと考えられる。
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