研究概要 |
本年度は「課題1. ラジカル置換ラジカルカチオン型磁性体の開発」ならびに「課題2. 新規強相関スピン系の開発」について検討を行った.課題1では,ニトロニルニトロキシド置換ジヒドロフェナジンラジカルカチオンハロゲン化鉄塩について磁気的性質を検討した.臭化鉄塩の結晶は温度を下げると7Kでフェリ磁性体に相転移し,塩化鉄塩は同様な温度で反強磁性的な相互作用を示し磁石になることはなかった.ハロゲンの種類による磁気的性質の顕著な違いは固体中の配列構造の違いに基づくことを明らかにした.さらに,酸素架橋平面型トリフェニルアミンラジカルカチオンハロゲン化鉄について検討を行い,臭化鉄塩,塩化鉄塩共に磁性体への磁気相転移が観測され,ラジカル置換ラジカルカチオン種は磁性体構築のための優れた構成単位であることを実験的に明らかにした. 課題2について,安定ラジカルとして良く知られているニトロニルニトロキシドとtert-ブチルニトロキシドを組み合わせて,これまでになくコンパクトで,二つのラジカル間に大きな強磁性的相互作用をもつ新規なジラジカル種を合成,単離し,その構造をX線構造解析により明らかにした.また,この新しいジラジカル種を用いて種々の磁性金属錯体を合成し,その構造と磁性を明らかにした.同様な手法により,いくつかの誘導体を検討したところ,二つのラジカル間に1000Kを超える大きな強磁性相互作用が存在する化合物を合成することができた.この値は我々の知る限り,室温で単離可能な高スピン種の内で最も大きな値である.
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