研究概要 |
種々の魚肉試料について水熱処理(亜臨界水処理)を行い、魚肉中に含まれるメチル水銀の溶出と、セレノプロテインの加水分解による水溶性セレノペプチドなど低分子量セレン化合物の溶出を確認した。後者は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)とICP-MSの組み合わせを用いて分析を行ったが、セレンの3つの主要マスナンバー(78, 80, 82)すべてについてクロマトグラムを確認することで、セレン種と保持時間が重なる他成分(臭素など)とを判別する手法を確立した。 魚肉試料の発酵処理(堆肥化)を行った場合、魚肉中に含まれる水銀とセレン種の運命について検討した。セレンは魚肉中のみでなく、堆肥化処理の培養基材中にも含まれているので分析が複雑であるが、発酵処理過程でセレンの30%程度が消失することを明らかにした。魚肉の替わりに亜セレン酸塩水溶液を入れて堆肥化処理を行った場合も、同様なセレンの消失が観測された。すなわち、一部のセレン種がセレン化水素のような揮発性物質となり、系外に排出されると考えられる。魚肉中に含まれる水銀については、堆肥化処理過程における消失は10%以下であった。水銀やセレンの存在形態解析のための逐次抽出法は効果的でなかったが、希塩酸抽出によって遊離水銀種(無機水銀)が検出されることは前年度に報告した。この抽出液についてSEC-ICP-MSを行いセレノペプチドの検出を試みたが、基材中に含まれるセレンや臭素(魚肉にも含まれる)の妨害によりうまく検出できなかった。 以上述べたように、水産廃棄物の再資源化処理において、有毒性の高い遊離種生成の観点から水銀とセレンの運命を検討し、亜臨界水処理では遊離のメチル水銀や低分子量セレン化合物が生成し、堆肥化処理では遊離無機水銀の生成とセレンの気化が起こることを明らかにした。
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