研究概要 |
本研究では、化学的アプローチを用いて、細胞内におけるヒトテロメアDNAとヒトテロメアRNAの構造・機能を明らかにすることによって、染色体構造の安定化、老化の調節、がん化などにおけるテロメアの分子作用機構を解明し、得られた基礎情報に基づいてテロメアをターゲットとするがん標的治療の新手法の開発を目的としている。本年度は、ハイブリッドテロメアDNA/RNAの分子構造を解明することや、テロメアをターゲットとする有効なテロメラーゼ阻害することを効率的に進めた。その結果、クリックケミストリーという化学的アプローチを利用することにより、ヒトテロメアDNAとRNA分子がハイブリッド四重鎖構造を形成することを発見し、ヒトテロメア保護の新しいモデルを提案した(J. Biol. Chem. 287, 41787, 2012.)。こうした精密な構造解析が、染色体構造の安定化や老化調節のメカニズムの解明に重要な知見を与えるだけでなく、より効果の高いがん治療薬開発の加速に貢献するものと期待できる。さらに、基質DNAと四重鎖構造を形成することによる巨大ゲノムDNAの位置特異的切断に成功した(Angew. Chem. Int. Ed. 51, 7198-7202, 2012.)。テロメアのように複雑な構造を持つDNAでも所定位置を選択的に切断できた(J. Am. Chem. Soc. 135, 14-17, 2013.)。また、テロメア伸張を阻害することによる副作用の少ないガン治療手法の開発に関する総説2報を発表した(Methods 57, 100-105, 2012; Curr. Pharm. Des. 18, 2096-2101, 2012.)。
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