当該年度では、タグ導入タンパク質の特異的ラベル化法の開発を中心に研究を進めた。特にヒスチジン連続配列であるヒスタグの小分子プローブによる共有結合ラベル化法の確立を目指して検討を行った。タグ・プローブ間での効率のよい共有結合形成を達成するために、タグ上には求核反応性の高いシステインを導入したヒスタグ配列、プローブには求電子反応性のα-クロロアセチル基を導入したNi(II)-NTA型化合物をデザインした。両者の反応を検討したところ、従来のアルキルスルホン酸エステルを反応基として持つプローブのラベル化反応と比較して初速度にして十倍以上の高い反応性を示すタグ・プローブペアを見出すことに成功した。このペアを用いて細胞表層に発現させたGタンパク質共役型受容体(GPCR)の共有結合ラベル化について検討を行った。システインを含むヒスタグ配列を細胞外N末端に導入したGPCR受容体を発現させた生細胞に対して、蛍光プローブを作用させたところ、受容体発現細胞表面に特異的な蛍光が観察された。この結果は、細胞表層において受容体特異的な共有結合ラベル化が進行したことを示す結果である。また本研究では、ヒスタグ導入タンパク質の細胞内でのラベル化を目指した新しい金属錯体プローブの開発を進めた。今年度の検討から、上記のNi(II)-NTA型プローブや、我々が最近見出したイミノジ酢酸タイプのヒスタグ親和性の亜鉛錯体プローブは、細胞膜を全く透過せず細胞内ラベル化への適用は困難であることが判明した。この結果を受けて本年度では、膜透過性を有する新しいプローブの開発を進めた。Ni(II)-NTAなどの金属錯体の膜非透過性の原因は、マイナスのネットチャージに原因があると考えられたことから、プラスあるいはニュートラル(ゼロ)のネットチャージを持ついくつかの亜鉛あるいはニッケル金属錯体をデザインして合成を行った.現在までにいくつかの錯体が、Ni(II)-NTAと同程度の親和性でヒスタグと相互作用可能であることを、ITC(等温滴定カロリメトリー)を用いた評価により確認済みである。
|