たんぱく質問相互作用は生体内信号伝達系で重要な役割を担っており、これらを阻害する有機低分子化合物は化学プローブのみならず新薬開発に必要なリードとして期待される。本年度は、活性ポケットと近傍たんぱく質表面を1分子で認識するアンカー型酵素阻害剤を合理的設計して合成し、たんぱく質間相互作用をnMレベルで強く阻害するとともに、共通のたんぱく質表面構造を有する類似酵素に対してdual阻害活性を示すことを明らかにした。構造の一部をペプチドミメティクスで改変した化合物は細胞内活性を示したが、高濃度を必要とすることがわかった。そこで細胞膜透過性を高めるために、グアニジル基含有化合物を設計し、種々の合成条件やスキームの検討を経て、8個の誘導体の合成に成功した。次に、ハイスループット評価系を構築するため、マルチプレートリーダーを用いた酵素反応速度の測定を検討した。その結果、微量な試料を用いて、6~8個の独立した反応速度を、再現性よく同時測定する系を構築することに成功した。現在、このアッセイ系を用いて合成誘導体のFTase阻害活性の評価を検討中である。一方、対称トリスルテニウムビピリジン錯体を調製し、錯体の構造とたんぱく質表面認識能との相関を検討した結果、フェニルアラニンを導入したビピリジンから調整した対称錯体と、1個の配位子を無置換ビピリジンに置換した非対称錯体では、標的となるたんぱく質の大きさによって会合体形成時の量論比が変わることを見出し、錯体のトポロジーを意図的に変化させることで、金属錯体-たんぱく質複合体の構造を制御することが可能であることを明らかにした。
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