本研究課題では、天然ウイルスの構築原理に学び、大きさ・形態だけでなく機能的にも天然ウイルスに近い人工ウイルスキャプシドを構築する化学的戦略を確立し、表面に規則的に機能性官能基を提示する方法論や、高分子・ナノ粒子を内包する方法論を確立することを目標としている。本年度は、人工ウイルスキャプシドの配列依存性を検討した。 まず、トマトブッシースタントウイルス由来のβ-Annulusペプチド(24残基)INHVGGTGGAIMAPVAVTRQLVGSの屈曲部に存在するプロリン(Pro)残基に着目し、これをアラニン(Ala)残基に置換したペプチドINHVGGTGGAIMAAVAVTRQLVGSを合成し、その自己集合挙動を検討した。本来のβ-Annulusペプチドは、ウイルス様のナノカプセル構造を形成するが、興味深いことに、Pro→Ala置換したβ-Annulusペプチドは、線維状集合体のみを形成した。つまり、β-Annulusペプチドの自己集合によるナノカプセル形成には、Pro残基の屈曲構造が必須であり、アミノ酸残基の親水性疎水性のバランスだけでカプセル形成しているのではないことがわかった。 また、新たな人工ウイルスキャプシドのモチーフとして、セスバニアモザイクウイルス(SeMV)由来のβ-Annulusペプチド(12残基)GISMAPSAQGAMを設計した。しかし、この12残基のみでは、水溶性に乏しく球状構造を形成しないため、C末端に自己集合部位としてFKFEを導入した16残基ペプチドGISMAPSAQGAMFKFEを設計・合成した。この16残基ペプチドは、水中で約32nmの球状構造体を形成することが、DLSおよびTEM観察から明らかとなった。
|