単電子トランジスタは、劇的な低消費電力を可能とする素子として注目されている。室温での動作を可能にするためには、ソース電極とドレイン電極の間に直径は数nmの「クーロン島」(極小の導電性金属)をnmの精度で置く必要がある。しかしながら現在のフォトリソグラフィー技術ではこのような精密な構造を作ることは不可能である。そこで本研究では核酸DNAの分子認識を用いることで、自己組織化的に量子ドットによる単電子トランジスタ構造を作製することをめざす。具体的には、量子ドットやナノ粒子から酵素反応によりDNAを伸長重合し、LB法により基板へ伸長固定化し、DNA部にナノメッキを施すことで、目的とする「単電子トランジスタ」に必要なナノワイヤー-量子ドット-ナノワイヤー構造を自己組織化的に確実に作製できる手法の確立を目指す。 具体的には以下の3つの研究項目で研究を進める。研究項目I.(研究計画)量子ドットをナノワイヤーで挟んだナノ構造を作製する。(方法)酵素合成により量子ドットに結合したオリゴヌクレオチドの重合反応を行い、LB法にて基板に伸長固定化し、プラチナ前駆体を用いてグアニン部分のみにPtナノワイヤー化する。研究項目II.(研究計画)クーロン島の両端の薄いトンネル性絶縁構造の状況を明らかにする。(方法)DNAの塩基配列並びにナノメッキの条件を変化させトンネル性絶縁構造の厚みを変化させ、導電性AFMにより常温での導電性を測定する。研究項目III.(研究計画)ナノワイヤー-量子ドット-ナノワイヤー構造を利用した単電子トランジスタを試作し、常温での動作を調べる。(方法)構造の両端にフォトリソ法で回路を作製し、動作確認を行う。 本年度は研究項目Iについて、I-(1)DNA共役量子ドットの作製、I-(2)DNA共役量子ドットのLB法による伸長固定化、I-(3)基板に固定したDNA共役量子ドットの塩基選択的金属化にそれぞれ成功した。
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