研究概要 |
本年度は,強誘電性柱状液晶の実現を目指し,ビスウレア分子(RO)3C6H2-CH20-C6H4-NHCONH(CH2)nNHCONH-C6H4-OCH2-C6H2(RO)3として,1a(n=5,R=n-C8H17),1b((n=5,R=n-C12H25),2a(n=6,R=n-C8H17),2b(n=6,R=n-C12H25)の4つの化合物を合成して,液晶性を偏光顕微鏡観察により調査した。1b以外の化合物では,予想通り,柱状液晶相特有のテクスチャが観察された。さらに,エーテル基の代わりにエステル基を導入した(RO)3C6H2-COO-C6H4-NHCONH(CH2)n NHCONH-C6H4-OCO-C6H2(RO)3の構造を有する3a(n=5,R=n-C8H17)と3b((n=5,R=n-C12H25)についても合成したところ,3aについては,スメクチックA相のような模様が観測されたが,3bについては柱状液晶相特有の模様が観察された。これらの新規ビスウレア化合物において,X線回折を測定すると,層構造を示すd100,d200,d300などが観測されたが,d110など六方柱状相を決定づけるような回折ピークは得られなかった。次に,ビスウレア1a,1b,2b,3a,3bを液晶セルに挟み,三角波電圧を印加して,そのスイッチング性能を調査した。エーテル化合物1a,1b,2bにおいては,柱状液晶相のテクスチャが電圧印加とともに瞬時に垂直配向になるのが観測された。エステル化合物の3aと3bについては,電圧印加後も完全な垂直配向が得られず,電圧に応答しにくいことが判明した。エーテル化合物1a,1b,2bは,垂直配向が観測されたものの,分極反転ピークは観察されなかった。尿素部位が分子中に2個あることによって,速いスイッチングができなくなってしまったものと考えている。 本年度の研究においては,複数の尿素部位の導入は,分子間水素結合を安定させ,カラム構造を形成しやすくするが,分子間水素結合の強化により,分子がカラム内で大きな束縛を受けて,スイッチングが起こらなくなることが判明した。しかし,スイッチングが遅いために分極反転ピークは観察されないものの,強誘電性が実現していることも考えられるため,より詳細な調査が必要と考えられる。
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