本研究では、溶液プロセスで成膜可能な単一の有機半導体でありながら、光照射処理や加熱処理などによって電荷輸送特性の電荷タイプ(p型、n型、両極性型)を変換できるチエノキノイド化合物を用いて、有機半導体集積回路などの有機デバイスへの応用を目指しています。これまでは、光照射によるpn変換では、近赤外のレーザー光のスキャニングを利用していたため、フィルム全面を変換するのに時間がかかっていました。今回、光源として高輝度ストロボを用いても、これまでと同様な変換が可能であることを確認することができました。これにより、広い面積を短時間で一括変換することが可能となりました。 また、pn変換が他の化合物でも広く行えるようになれば、有機デバイスへの応用の可能性が大きくなると考えられます。そこで、pn変換が起こる理由について、その機構解明にも取り組みました。X線回折、示差走査熱量測定(DSC)、分光測定、質量分析などの解析結果から、加熱処理によるpn変換を実行する際に、高温(180度)短時間でも、低温(95度)長時間においても、加熱による化合物の分解を伴わずに、pn変換が可能であることが分かりました。また、粉末X線回折の解析により、結晶構造をほぼ特定することができました。その結果に対して、密度汎関数理論(DFT)計算による解析を行ったところ、わずかな結晶構造の変位により、電荷輸送特性の変換が可能であることが分かりました。
|