研究課題
本研究では、溶液プロセスで成膜可能な単一の有機半導体でありながら、光照射処理や加熱処理などによって電荷輸送特性の電荷タイプ(p型、n型、両極性型)を変換できるチエノキノイド化合物について研究しています。本年度は、主にpn変換が起こる理由について、その機構解明に取り組みました。機構を解明できれば、pn変換を起こす化合物系を拡大することも可能と考えられ、有機エレクトロニクスの実現に繋げることができます。実施した研究内容としては、まず、加熱による分子パッキングの変化を検討するために、X線回折による解析を行いました。分子軸が基板に平行に配列し、基板面内および基板に垂直な方向のいずれでも、d-spacingが拡大することが分かりました。一方で、密度汎関数理論(DFT)計算により、分子パッキングの変化に伴う、HOMOおよびLUMOのSplittingの変化(Transfer Integralの変化)について検討しました。その結果、2つの分子が分子軸方向に変位する場合は、HOMOとLUMOのSplittingが異なる周期で増減するため、それぞれのSplittingの大小が入れ替わる、すなわち、p型とn型が変換し得ることが分かりました。また、分子軸に垂直な方向の変位については、LUMOよりもHOMOの方が変位に対して敏感であり、トランジスタの実験結果である、加熱処理によるホール移動度の減少に対応するような結果が得られました。以上のように、分子パッキングの変化によるTransfer Integralの変化が、pn変換に関わっていることが示唆されました。今後、構造変化と半導体特性との相関に関する研究へと発展することが期待されます。他にも、膜厚の変化に伴う移動度変化を検討するためにX線回折を詳細に検討した結果、移動度の変化がグレインサイズの変化と相関があることが分かりました。
2: おおむね順調に進展している
順調に研究発表を行うことができていると考えています。また、p型n型パターニングによる集積回路作製に向け、製造プロセスの検討よりもpn変換の機構解明に注力し、機構解明に道筋が見えてきました。これにより、広範囲な化合物に適用できることや、有機半導体の研究に対して大きなインパクトにつながると考えらえます。
引き続き、pn変換の機構解明に取り組んでいきます。これは、現在の研究体制で、強力に推進できると考えています。また、混合溶媒を用いたpn変換などの、新たな取り組みも開始します。さらに、デバイス化については、新たな研究協力者の協力を得て、研究を推進する予定です。
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