研究課題
本研究では、溶液プロセスで成膜可能な単一の有機半導体でありながら、光照射処理や加熱処理などによって電荷輸送特性の電荷タイプ(p型、n型、両極性型)を変換できるチエノキノイド化合物について研究しています。本年度は、pn変換の機構解明に加えて、研究協力者らとの連携により、非常にフレキシブルな有機デバイスの開発に取り組みました。また、機構解明に向けて実施している分子パッキング構造の制御と量子化学計算による電荷輸送特性の評価を、他の化合物にも適用し、本研究手法の普遍化にも取り組みました。フレキシブルな有機デバイスとして、強誘電体電界効果トランジスタ(Fe-FET)を用いた不揮発性メモリー素子を開発しました。この素子では6000秒以上のデータ保持、100回以上のデータ書き換えが可能であり、折り畳んでも(曲げ半径0.5 mm)、1000回曲げ伸ばししても、メモリーとして動作しました。またチエノキノイドの特性に基づく、p型・n型の両者での動作も確認されました。本チエノキノイド薄膜は長いアルキル鎖を介して積み重なっていく分子配列構造を有しているために、歪みに対する耐久性が非常に高いと推察されます。化合物本来の電荷輸送特性を量子化学計算により検討しました。特に、通常の2分子間での計算ではなく、3次元的に配置された複数分子での計算を行いました。これにより、分子配向を考慮した計算も可能となり、電荷輸送の異方性についても検討できることが明らかになりました。この量子化学計算に加え、FET特性評価、光学分光法、X線回折などを駆使することで、分子パッキング構造と物性との相関を検討することが可能であり、化合物本来の特性と、フィルムの特性とを結びつける重要な知見が得られることが分かりました。
2: おおむね順調に進展している
順調に研究を行うことができていると考えています。p型n型パターニングによる集積回路作製に向け、製造プロセスの検討よりもpn変換の機構解明に注力し、機構解明に道筋が見えてきました。また、量子化学計算と、FET特性評価、光学分光法、X線回折などを駆使することで、他の化合物についても分子パッキング構造と物性との相関を検討することが可能となり、研究が拡がりを見せています。加えて、本チエノキノイド薄膜は歪みに対する耐久性が非常に高いことが分かり、極めてフレキシブルな不揮発性メモリー素子を作製することができ、Nature Commun.にて公表することができました。
引き続き、分子パッキング構造と電荷輸送能力との相関関係の追及を軸に取り組んでいきます。その中で、pn変換の機構解明を行い、pn変換が他の化合物でも行えるように一般化を目指します。このテーマに関しまして、デバイス作製と評価、化学合成と分光解析、量子化学計算、X線構造解析に取り組む研究協力者の連携の元、強力に推進できると考えています。これまでの、out-of-plane、in-plane、微小角入射などのX線構造解析に加え、放射光施設も利用し、pn変換に伴うフィルムの分子パッキング構造の変位を検討します。あわせて、構造変位に伴うTransfer Integralなどエネルギー準位の変化を量子化学計算により求め、分子パッキング構造と輸送電荷極性の関係を検討します。同様の手法を他の化合物にも適用し、知見の一般化を図ります。量子化学計算では、通常の2分子間だけではなく、3次元的に配置している複数分子間における計算を実行することで、分子配向を考慮した計算も可能となっています。すでに、分子配向膜を作製するための複数の技術を有しており、分子配向、化学計算、デバイス特性を連携して研究展開を図ります。また、チエノキノイド化合物が非常にフレキシビリティーの高い材料であることが明らかになりました。そのフレキシビリティーの高さを利用した、新たな分子配向技術を確立させ、分子パッキング構造と電荷輸送能力の関係を追及していきます。以上のように、複数の分子において分子配向を制御し、分子パッキング構造と物性との相関を検討することで、構造と物性に関する知見の一般化に取り組み、有機半導体材料の応用へ役立てていきます。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件)
Nature Commun.
巻: - ページ: 1-12
doi: 10.1038/ncomms4583