ナノマトリックス構造を有するゴムが特異的に優れた力学物性を示す原因を解明することを目的とし,絡み合い点という物理的架橋点の力学物性における役割を検討した.具体的には、天然ゴムの内部にポリスチレンを多量成分とするナノマトリックスを形成し,ナノマトリックスの中に存在するポリスチレンナノ粒子と天然ゴムのバルクの力学物性への効果をAnton Paar MCR 302 Rheometerを用いて評価した. 試料には市販の高アンモニア天然ゴム(HANR)ラテックスを用いた.HANRラテックスに尿素および界面活性剤を用いて脱蛋白質化した天然ゴム(DPNR)にラテックスの状態でスチレンをグラフト共重合することにより,平均直径約1 mの多量成分の天然ゴム粒子が厚さ10~60 nmの少量成分のポリスチレンのマトリックスに分散したナノマトリックス構造を形成した. 動的粘弾性を測定したところ,30 ºCにおける貯蔵弾性率は,海島構造を有する天然ゴム/ポリスチレンブレンドでは天然ゴム単体の約1~3倍であったが,ナノマトリックス構造を有する天然ゴムでは天然ゴム単体の10~100倍以上に増加した.ナノマトリックスに充填されたポリスチレンナノ粒子の直径が約5 nmの場合,損失正接の値は約0.15であり,周波数に対してほとんど変化しなかった.一方,ナノマトリックスに充填されたポリスチレンナノ粒子の直径が約60 nmの場合,損失正接の値は約0.08となり,周波数に対してほとんど変化しなかった.これらは,原料であるDPNRの損失正接が周波数に依存して変化するのとは異なっていた.以上により,ナノマトリックスの中にナノ粒子を密に充填することにより,損失正接が周波数に依存しない材料を調製できることが明らかとなった.
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