直径が1μm以下の繊維は、高分子液体中において顕著なブラウン運動を示す。本現象はカーボンブラック(CB)や気相成長炭素繊維(VGCF)で報告されている他、我々もアスペクト比の大きなCNT(Carbon Nanotube)で確認している。また、非相溶ポリマーブレンドに微粒子が分散した系では、各ポリマー(相)との混和性に応じてその偏在状態が決定することは知られている通りであり、我々もゴムブレンド系においてCBが偏在する現象を報告している。これら二つの現象に着目し、本研究開始までに非相溶ポリマー界面をナノファイバーが横切って移動する現象を初めて明らかにしている。しかしながら、これまではその現象が定性的に明らかになっているのみで定量的な予測はできていなかった。そこで今年度は、CNTが示すブラウン運動を材料全体のレオロジー特性の変化を調べることで把握すると共に、異種高分子間の移行現象を定量的に予測することを試みた。 実験ではポリカーボネートに多層CNTを混合し、材料に流動変形を与えることでCNTを配向させると共に、その後の緩和挙動を解析した。得られた結果は、剛体棒状粒子分散系で提案されている回転拡散係数を用いることにより、定量的に表現できることが判明した。また、さまざまなポリマー種とCNTとの混和性に関して検討を行うと共に、異種相間の移行現象との関係を検討した。実験では、圧縮成形機による熱処理で移行を行った試験片のCNT分散状態をSEMで評価し、その結果を基に、CNTの移行、移行後の拡散、の二つの過程を調べた。その結果、CNTの移行は界面張力により決定されることが明らかになると共に、その移動量と速度は拡散方程式で定量的に予測可能であることが判明した。次年度以降、本知見を基に材料開発への応用を進めると共に、有機ナノファイバーへの応用展開も図る。
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