研究課題/領域番号 |
22350106
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
遊佐 真一 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00301432)
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研究分担者 |
川瀬 毅 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10201443)
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キーワード | 精密ラジカル重合 / 高分子構造・物性 / ナノチューブ・フラーレン / ナノ材料 / 光物性 / 光線力学的療法 / 温度応答性 / 自己集合体 |
研究概要 |
本研究では病変部を体温よりわずかに加温することで、その周辺の細胞のみに薬剤を内包した感温性ナノキャリアを集積化して特異的に細胞内に取り込まれ易くする技術を開発することを目的としている。特に内包薬物として光線力学的療法(PDT)用の光増感剤で、一重項酸素の発生効率の高いフラーレン(C60)の使用を検討した。これを感温性ナノキャリアの内包物に用いることで副作用が少なく治療効果の高いPDTの構築を目指した。具体的には生体適合性でC60との親和性が高いことが知られている親水性のポリ(N-ビニルピロリドン)(PNVP)を用いてC60を水に可溶化することを検討した。モノマーのNVPは非共役であるため通常の制御ラジカル重合法では重合の制御が困難で、ブロック共重合体を合成できない。そこで本研究では有機テルル化合物を使用した制御ラジカル重合法のTERP(organotellurium-mediated living radical polymerization)で重合を行うことで感温性のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)とPNVPによるジブロック共重合体を合成した。今年度は、TERPによるPVPとPNIPAMのジブロック共重合体合成を行った。さらに得られた二重親水性ジブロック共重合体とC60を混合することで、水溶性のミセル状会合体を作製した。この会合体はコアがPVPとC60のコンプレックス、シェルは感温性のPNIPAMで形成されていることをNMRおよび光散乱測定により確認した。 一般的に100~200 nm程度の粒径の微粒子が、通常の組織に比べて腫瘍組織に取り込まれ易くなることが知られている(EPR効果)。今年度は、会合体の形成という目的は達成したが、会合体の粒径を100~200 nm程度に調製できなかったため、研究計画より更に多くの組成のポリマーの合成が必要となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PVPは合成する時のラジカル重合の成長反応において、成長末端のラジカルが共鳴構造を形成しないため、非常に成長末端ラジカルは活性が高い。N-ビニルピロリドンは非共役モノマーと呼ばれている。またPNIPAMの場合、ラジカル重合の成長反応において、成長ラジカルは共鳴構造を形成するために、ラジカルの反応性は低下する。NIPAMのようなモノマーは共役モノマーと呼ばれている。一般的に、このような非共役モノマーと共役モノマーによるブロック共重合体の合成は大変困難であることが知られている。しかし、今回制御ラジカル重合法のTERPを用いることで、PVPとPNIPAMの二重親水性のジブロック共重合体の合成に成功した。さらに、得られたジブロック共重合体とC60を混合することで、水中でミセル状の会合体を形成することを確認できた。しかし、会合体の粒径を目的の100~200 nm程度の範囲にすることができなかった。したがって達成度は最初の計画に比べるとやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今のところPVPとPNIPAMの二重親水性のジブロック共重合体の合成には成功したが、このジブロック共重合体とC60によるコンプレックス形成により得られる会合体の粒径の制御ができていない。この問題を解決するためには、ジブロック共重合体を合成するときにPVPとPNIPAMの分子量を最適になるように調節したポリマーを合成する必要がある。TERPを用いた重合方法は、最初のテルルを含む触媒とモノマーのモル比を調節することで、得られるポリマーの分子量を制御できる。したがって、100~200 nm程度の粒径になるようにPVPとPNIPAMの分子量を調製したジブロック共重合体を合成する。 目的のポリマーの合成に成功したら、水中でのC60との会合体形成を行う。会合体はコアがPVPとC60で形成され、外側のシェルは感温性のPNIPAMで形成される。昇温するとPNIPAMが疎水性になり、会合体間での高次の会合体が形成され粒径の増加が観測される。したがって、会合体の粒径が温度に対してどのように変化するのかを動的光散乱測定の手法を用いて詳細に調べる。 さらに、C60は光を照射することで活性酸素を生成する。この活性酸素は周辺の細胞にダメージを与えることができる。目的のポリマーとC60の会合体の形成に成功した後、会合体の水溶液に光を照射することで活性酸素の放出について調べる。さらに、発生した活性酸素によるDNAへの影響について詳細に検討する予定である。
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