1.最近、スピン量子数S=1/2の低次元量子スピン系物質において、スピンの励起子であるスピノンによる熱輸送がバリスティックであり、スピンによる熱伝導が非常に大きくなることが分かってきた。したがって、結晶中のスピン欠陥を可能な限り除去すれば、スピンによる熱伝導の著しい向上が期待できる。そこで、本年度は、S=1/2の2本足スピン梯子格子系Ca_9La_5Cu_24O_41におけるスピンによる熱伝導の向上を目指して、純度が3N、4N、5Nと異なる原料を用いてCa_9La_5Cu_240_41の単結晶を育成し、熱伝導を測定した。その結果、フォノンによる熱伝導に比べて1桁大きいスピンによる熱伝導を観測したが、単結晶の育成に用いた原料の純度による大きな違いは見出されなかった。それゆえ、原料に由来する不純物よりはむしろ酸素欠損、あるいは過剰酸素がスピン梯子格子の欠陥を生じさせている可能性があると思われる。今後、単結晶試料を酸素中、あるいは真空中でアニールすることによって、スピンによる熱伝導度の向上を目指す予定である。 2.3次元スピンダイマー系TlCuCl_3では、低温でスピンギャップを磁場によって消失させると、スピンの励起子であるトリプロンがボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)状態に相転移し、熱伝導が飛躍的に増大することを我々は以前に発見していたが、その原因はよく分かっていなかった。そこで、本研究では、同様にトリプロンが磁場によってBEC転移する1次元ボンド交替系Pb_2V_30_9の単結晶を育成し、熱伝導度を測定した。その結果、BEC状態においては、トリプロンが熱輸送に寄与できるスピン鎖方向においてのみ、熱伝導度の大きな増大が観測された。したがって、トリプロンのBEC状態における熱伝導度の増大は、トリプロンの熱輸送によるものであると結論した。
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