研究概要 |
或る程度のスピン偏極度を保ちながら,ホール係数の小さなバイポーラ伝導特性を維持できる材料の候補として,非磁性の水素吸蔵体YH_2とGdH_2との合金Gd_xY_<1-x>H_2に注目した.作製した合金Gd_xY_<1-x>H_2(x=0.18~0.79)における格子定数のGd濃度依存性は,ベガード則を示すことから,固溶体合金が得られていることが分かった.これらの磁化およびホール抵抗の磁場依存性測定によって,x=0.49では.異常ホール効果が77Kにおいて明確に観測され,キャリヤが外部磁場中でスピン偏極することが分かった.なぜならば,異常ホール効果の出現は,スピンアップキャリヤとスピンダウンキャリヤの濃度バランスが崩れていることを意味するからである.観測された磁化値とホール抵抗値を用いて,正常ホール係数R_Hと異常ホール係数R_sを最小二乗法で回帰分析した.その結果,正常ホール係数としてR_H(77K)=1.5×10^<-11>m^3/C,R_H(300K)=7.9×10^<-12>m^3/C,異常ホール係数としてRs(77K)=1.2×10^<-8>m^3/C,Rs(300K)=5×10^<-9>m^3/Cが得られ,Gd_xY_<1-x>H_2(x=0.49)の正常ホール係数は,擬ゼロホール係数材料YH_2と同程度であることが見出された.したがって,Gd_xY_<1-x>H_2(x=0.49)は,擬ゼロホール係数特性をもつバイポーラ伝導性を有していると云え,この合金は,我々が提案しているバイポーラ伝導性に基づく純スピン流のチャネル材料に適していると結論される. 本課題の最終目標は,擬ゼロホール係数特性をもつバイポーラ伝導性磁性体をチャネル材料として,電流-純スピン流変換素子を製作することであるが,通常のスピントロニクス材料プロセスと異なる点は,水素雰囲気処理が必要になる点である.すなわち.チャネル領域を作製するには,例えば,Gd_xY_<1-x>を成膜後,97%Ar-3%H_2の混合ガス中で加熱処理(約325℃)する必要がある.その水素雰囲気処理をどの段階でどのような条件で実施するのがよいかのかを,フォトリソグラフィーを用いた,数μm程度のチャネル長を有する微小ホール素子作製を通じて検討した.その結果,水素化処理は,チャネル層(例えばY)蒸着後,レジスト膜剥離前に行うのが良いことが分かった.この水素雰囲気処理時の温度は,Yの場合には220℃以下が良いことが分かった.また,SiO2スパッタ膜を絶縁層として,その上にチャネル層を蒸着形成するが,その下地としては、Tiが、また,その保護膜としてはPdが利用できることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電流-スピン流変換素子作製では,キャリヤチャネル領域として,希土類金属をベースにした水素吸蔵体を用いるので,作製プロセスの途中に水素雰囲気処理工程およびレジスト膜剥離工程を入れる必要がある.このとき,水素処理温度を250℃以上にすると,レジスト膜を変質し,レジスト膜剥離工程が円滑に進まなくなり,チャネル領域形成前に作製した電極-チャネル間導通状況に影響を与え始め,素子作製の歩留まりを悪くし,工程進行の遅れを招いている.また,本研究では,研究分担者および連携研究者所属機関の阪大複合ナノファンダリ施設所有のフォトリソグラフィーや集束イオンビーム装置などの微細加工装置を使用している.この施設が組織替えのためH24年4月~9月の期間使用できない.この点も今後の工程進行の遅れを招くと予想される.
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今後の研究の推進方策 |
工程が遅れている原因を2点,§11.で記述した.前者に対する方策として,水素雰囲気処理時の温度を出来る限り低くし、その時間も出来る限り短くすることを検討する.その為には,チャネル層の保護膜として,水素化反応を促進する材料に注目する.後者(H24年4月~9月の期間施設の都合で微細加工装置が使用できない)に対する方策として,別の研究機関が所有する微細加工装置の使用を早急に検討する.
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