本研究の目的は、シリコン中に自発的に形成される{311}欠陥量子細線ロッドを制御してシリコン導波路(Si-LED)とシリコン光増幅器(Si-SOA)への進化を模索することである。{311}欠陥の発生方位の特異性と量子細線ロッド電子系の非ブロッホ的な性質を積極的に利用することで、シリコン生来の間接バンド間遷移特性を克服することを目指した。これにより光学特性に特化した欠陥エンジニアリングへの先鞭を着けようとするものである。本年度では、自然放出増強光発生とレーザー発振への足がかりをつかむべく、前年度に作製した2次元導波路構造を基本として、電流ポンプ条件下での誘導放出光発生と光利得発生に注力した。2チップ構成のポンププローブ法を用い、プローブ光を光励起、増幅器を電流励起した条件下での光増幅の評価を行った。チップへの{311}欠陥量子細線ロッドの導入には、段階的アニールを用いた。5mm内外のデバイス長の増幅器では、全光ポンプ下での利得が6dBなのに対し、電流励起では7-8dBの増幅度が得られた。尚、この際、光利得は高エネルギー側のPDについてのみ生じ、PDのみが活性となる領域(<25V)では励起強度に比例する光利得が、低エネルギー側のLIDが活性となる励起領域(>25V)では光利得の急激な減少から損失への急激な転換が観測された。これはLID蛍光の時定数(~100ns)や温度上昇によるLIDの利得抑圧を意味し、シリコンレーザーを実現するうえでは、PDの選択導入とLID抑制が重要となることがわかる。一方、光励起条件下では、増幅自然放出光発生を示唆するポンププローブ測定の結果を得た。さらにG-line欠陥発生法を新規に開発し、光、電流励起下での利得発生を調べた。過去に報告されたレーザ発振らしき振る舞いは再現せず、利得も発生しないことがわかった。これは{311}欠陥の優位性を示している。
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