本研究は、六方晶相の混入を高度に抑制した立方晶相III族窒化物半導体薄膜成長を実現し、それにより立方晶III族窒化物半導体薄膜およびヘテロ構造の特徴ある物性および応用上有利な物性を明らかにするとともに、その物性応用としての、発光デバイス、電子デバイスなどの可能性を探求することを目的としている。この目的に沿って、初年度の平成22年度においては、以下の研究成果を得た。 1.MOVPE法によるGaAs(001)基板上の立方晶GaN薄膜成長において、AlGaAs中間層を挿入することによりGaAs基板表面の熱損傷を抑制し、立方晶薄膜の相純度を改善できることを明らかにした。具体的には、GaAs上にAl濃度11%のAlGaAs層を700℃で400nm積層した後に、600℃でGaNバッファ層、925℃でGaN層をエピタキシャル成長させることにより、立方晶相純度95.2%を実現した。表面平坦性も改善された。 2.MBE法によるYSZ基板上の立方晶InNおよびInGaN薄膜成長において、相純度がInリッチ成長表面において向上することを見出し、450℃成長InNにおいて相純度95%を実現した。InGaNにおいては、InNに対してGa濃度を増加させるとともに相純度の顕著な低下がみられ、450℃成長のGa濃度13%のInGaNにおいて、相純度は13%であった。相純度の低下は、表面吸着Ga原子が、GaおよびInの表面マイグレーションを低下させるためであると解釈される。 3.MBE法によるMgO(001)基板上のSiドープ立方晶GaNおよびAIGaN薄膜成長において、適度なドープ濃度の範囲内ではSiドープが相純度および結晶性に影響を与えることはないことを確認した。過剰なSiドープは積層欠陥を生成し、六方晶相混入の原因となることを明らかにした。立方晶GaN薄膜においては、電子濃度2.8×1020cm-3、AlGaN薄膜においては、電子濃度1.1×1020cm-3までのn型電気伝導性を確認した。最大電子移動度は、立方晶GaN薄膜においては、27cm2/Vs、AlGaN(Al濃度5%)薄膜においては、14cm2/Vsであった。移動度低下の主原因は積層欠陥による電子散乱と考えられる。
|