大阪大学においてFeMnO(強磁性転移温度~900K)を用いたTMR素子の作製を開始した。TMR素子構造はPy/AlO/FeMnOからなる縦型ピラー構造である。絶縁膜にはMgOも試したがより良好な電気特性を得られるAlOが好適であると判断した。AlOバリア層の成長条件の最適化を行い、良好なトンネル伝導特性を得ることができた。さらに微細加工を行い、室温で0.85%のTMRを得るTMR素子の作製に成功した。これは強磁性転移温度が室温を超える酸化物強磁性体を用いた初めての室温TMR効果の発現である。 しかしながら磁気抵抗比はまだ十分ではなく、この磁気抵抗比からJulliererモデルを使って計算されたFeMnOのスピン偏極率は0.9%程度である。バルクのFeMnOのスピン偏極率は50%以上あることがカー効果の測定などから明らかとなっているので、この実験事実は酸化物表面の原子配列などがスピン偏極率に対して非常に重要な役割を果たしていること、またTMR効果でよく知られているように界面のスピン状態の制御が大きな磁気抵抗比を得るために重要であることを強く示唆している。 次年度以降はさらにTMR比を向上させながら分子層を挿入することで分子スピンバルブの作製、ならびに分子を介したスピン依存伝導現象の観測を目指し、Hanle効果の発現を狙いながら分子中のスピンコヒーレンスの精密測定を目指す。
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