最終年度は予定した通り動力学的なスピンポンピング法を活用した分子材料へのスピン注入とスピンコヒーレンスの観測を目指して研究を遂行した。まず強磁性金属をスピン源にしたスピン注入を目指し、Ir系分子材料/NiFeというヘテロ構造においてスピン注入らしき信号の観測に成功したが、その後の詳細な対照実験により信号は従来この手法では考慮されていなかったNiFeそのものが自発的に出す信号であることが明らかになった。これは本研究課題の主要目標とは異なるものの、広くスピントロニクス分野における大きな発見であり、現在論文をNature系雑誌に投稿中である(Cond-matには登録済み)。また想定している分子を用いた素子構造において、本当にこの手法でスピン注入とスピン輸送、コヒーレンス評価が可能かどうかをPd/Al(分子材料の代わりとして使用)/NiFeの縦型構造を作製して評価したところ、室温でのスピン輸送とスピンコヒーレンス評価に成功した。この成果はNature Publishing Gp.のScientific Reports誌に掲載が決定している。以上の技術と知見を融合し、分子性ゼロギャップ半導体である単層グラフェンにスピンポンピング法でスピン注入を行いスピン輸送を達成することで、そのスピンコヒーレンスを精密に評価することができた。本成果はPhysical Review B誌にRapid communicationとして掲載され、同時にEditor'sSuggestionにも選ばれた。
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