本提案の目的は分子性半導体を対象材料に、確実なスピン注入を実証した上でスピン輸送特性・スピン緩和機構を精密に評価することである。当初、共同研究先であるイタリア ISMN-CNR の Dediu 博士 Gp から試料提供を受け研究を開始したが、最初の目標であるスピン歳差運動の効果(Hanle 効果)は観測できず、分子へのスピン注入を確実に証明することが困難であることがわかった。そこで代表者のグループでも新規酸化物強磁性体を用いた磁気抵抗素子を作製し、同時に分子半導体/強磁性体界面電子構造の検討とドーピングによる電子構造変調に挑戦して、共に成功裏に研究を遂行した。また新しいスピン注入手法確立のために動力学的スピンポンピング法を新たに確立し、非磁性金属縦型スピン素子を用いて動力学的スピン輸送をさせスピンコヒーレンス評価を行った。以上の技術・知見を融合し分子性ゼロギャップ半導体である単層グラフェンを用いて本手法を用いたスピン注入・スピン輸送を成功させ、精密なスピンコヒーレンス評価を行った。本研究により従来の研究の抱える問題点が明らかになったと共に、スピンポンピングという新たな手法が分子性半導体へのスピン注入に有効であることを示すことができた。
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