研究課題/領域番号 |
22360009
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
澤木 宣彦 愛知工業大学, 工学部, 教授 (70023330)
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キーワード | 窒化物半導体 / MOVPE成長 / 格子欠陥 / シリコン基板 / 不純物ドーピング / 疑似格子整合 / TEM / PL |
研究概要 |
環境・エネルギー分野で大きな期待が寄せられている窒化物半導体デバイスのさらなる高度化に必要不可欠な結晶欠陥密度の低減と伝導性制御のため、Si基板上への高品質ヘテロエピタキシを検討した。 シリコン上へのGaN成長は典型的なヘテロエピタキシである。大きな格子定数差を有する上に成長雰囲気におけるGaN成長層とSi基板との強い反応性がある。成長層の劣化を防ぐため、緩衝層としてGaを含まないAlInNの可能性を検証している。このヘテロエピタキシにおいて擬似格子整合成長を実現することにより、ミスフィット転位の発生を制御し成長層の高品質化を達成する条件を探るため、試料の断面TEM像とPLスペクトルを評価した。Si(111)面上への窒化物エピタキシにはAlN層が必須であることから、極めて薄いAlN層を堆積した後にAlInN緩衝層を成長させ、その上にGaNを成長させた。AlInN層の厚さを16~70nmの範囲で変化させた試料とAlInN成長温度を970~1200℃と変化させた試料の断面TEMならびにPLスペクトルを評価したところ、AlInN層が薄いほど、また成長温度が低いほどGaN層の結晶品質は良くなることが分かった。 窒素で終端された(1-101)半極性面はGaで終端された(0001)面とは異なり、炭素ドーピングによってp形伝導が得られると報告しているが、そのドーピング特性は不明である。炭素ドーピング試料の赤外線吸収スペクトルを詳細に検討したところ、GaNの場合は945cm-1にAlGaNの場合は950cm-1に特徴的な吸収ピークがあることが分かった。線形近似で予想されるAl-Cボンドの伸縮振動エネルギーは928~930cm-1で実験値よりわずかに小さく、Al-Cボンドが他の元素あるいは欠陥により修飾されている可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Si基板上へのGaNヘテロエピタキシャル成長の課題は、ヘテロ界面における大きな格子不整と強い反応性への対策である。SiとGaNの大きな熱膨張係数差が高温プロセスによる成長層の劣化を増強している。その対策として我々はGaを含まない緩衝層を提案している。AlInN層の形成条件により成長層の品質が大幅に左右されることが明らかになり、最適化条件の確立に近づいている。また、炭素ドーピングに関しては、A1-Cボンドが決定的な役割を果たしていることが明らかになり、高品質結晶への新しいp形ドーパントとしての可能性がより現実的なものとなった。
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今後の研究の推進方策 |
AlInN緩衝層の形成条件を見いだす方向性は明らかになったが、現状では疑似格子整合を見いだすに至っていない。最適条件を確立するためにさらに断面TEM観察を進め、ミスフィット転位が貫通転位に成長する過程を明らかにする必要がある。炭素ドーピングに関しては、新たに見いだされた特性ピークがAl-Cボンド形成を指示したが、理論的に予想される値とは若干の差異があった。このことはAl-Cボンドが複合欠陥を形成していることを示唆している。水素あるいは酸素が関与する複合欠陥は熱処理による変態が期待されるため、熱処理を試みたが該ピークに有意な変化は見いだされなかった。今後、高エネルギー側での特性ピークを探索して水素と酸素の役割を検証するとともに、Al-Cボンドの対称性を評価することにより、炭素ドーピングの特性を評価する。
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