研究概要 |
不揮発性スピンメモリにおいて電界による磁化反転を利用したデータ書換えを確立するために、強磁性金属/酸化物積層薄膜における結晶磁気異方性とその電界効果の第一原理計算を行い、顕著な電界効果を発現する材料・素子構造を理論的に探索した。 1.MgO/Fe/MおよびMgO/M/Fe/M薄膜(M=Pd, Pt, Au)における磁気異方性の電界効果を計算した。その結果、Pd/Fe接合を含む薄膜とPt/Fe接合を含む薄膜では磁気異方性の電界効果の符号が異なることを明らかにした。電界変調量をMgO/FeおよびMgO/FeCo薄膜と比較すると、同程度か数倍程度の大きさが得られ、PdまたはPtをFe/MgO界面に挿入することにより、磁気異方性電界変調が増強できることを示した。 2.MgO/Fe/Au薄膜における磁気異方性の電界効果の面内格子定数依存性を理論計算した。その結果、面内格子定数をバルクFeの値にした場合とバルクMgOの値にした場合で、磁気異方性の電界変調の符号が異なることを見出した。この符号反転は磁気異方性の価電子数依存性から予想される結果と対応している。また、バルクFeと同じ面内格子定数のときの計算結果は、MgO/Fe接合における実験結果と定性的に一致している。 3.Fe/Pd薄膜は試料作製時の原子拡散により理想的な積層構造が実現できていないために、Pdに磁気モーメントが誘起され、薄膜の磁気異方性に大きな影響を及ぼすと考えられる。そこで、Fe/Pd薄膜における原子積層構造と磁気異方性の関連性を理論計算により確かめ、X線吸収磁気円二色性(XMCD)実験の結果と矛盾のない結果を得た。特に垂直磁気異方性の出現には正方晶歪みが重要な役割を果たしていることを明らかにした。
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