研究概要 |
ボリジメチルシロキサン(PDMS)は, 生体適合性がありパイオテクノロジーおよび微 小化学分析器に不可欠な構造材である。本研究では, レーザー生成プラズマを用いた狭帯域・高パワー密度軟X線源を開発する。これを用いてPDMSに軟X線を照射し, 励起準位を制御した高密度励起を行う。この軟X線照射によるPDMSの加工について研究を行う。これにより, 1μmから1mmの長さの領域においてPDMSを加工する軟X線加工法を確立することを目的とする. 軟X線源として, 金属Ta, 金属Sn, 固体Xeターゲット材料にNd:YAGもしくはCO2レーザー光を集光照射することにより発生するプラズマ光(レーザープラズマ軟X線)を用いた. また, 発生した比較的広い波長範囲の軟X線を効率よく集光するための集光光学系を開発し採用した. これにより, 結合を切断するのに十分な光子エネルギーを有する真空紫外光の他に, Si 2p 電子の選択励起ができる光源を開発した. また同時に, 高パワー密度が実現できる集光光学系を実現した. 以上の光源および光学系を組み合わせてPDMSに軟X線を照射した. これにより, 厚さ10μmのPDMSシートに直径1μmの貫通孔を作製する方法を確立した. さらに, 照射する軟X線のPDMS表面でのパワー密度Pを変え, 以下のアブレーション特性を見出した. ある閾値のパワー密度P0以上では, アブレーション加工ができる. 閾値以上では,アブレーション深さDは, D=(1/a) ln(P/P0) の関係にある. この軟X線からアブレーションに至るエネルギー伝達効率 a から, 表面100nm 以下の深さで効率的にエネルギー伝達が起き, ほぼ原子状に分解されると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では, バイオテクノロジーおよび微小化学分析器への応用を前提とした実用的なPDMSの光直接加工法の確立を目指す. 特に, 従来法では実現できないマイクロメートルのスケールでの高いアスペクト比の加工法, および3次元加工法の確立を目指す. これまでに Ta, Sn, Xeターゲットに Nd:YAG または CO2レーザー光を照射し, 10 nm 前後の軟X線を発生し, とくにこの波長領域の光を効率よく集光する光学系を開発した. これにより, 10μmの厚さのPDMSシートに直径1μmの貫通孔を作製することを可能とした。加工特性を明らかとするため, 軟X線のパワー密度を広い範囲で変化させ, 軟X線照射後のアブレーション深さおよびPDMS表面の化学的構造を調べた。 本研究で採用した高いパワー密度の軟X線を用いた場合, ある閾値のパワー密度があり,れより高いパワー密度ではアブレーションが起きることが明かとなった. アブレーション深さはパワー密度が高くなるにつれて深くなり, 本研究で採用した市販のNd:YAGレーザーを用いて軟X線を発生させた場合でも, 1ショットあたり 100 nmの深さでアブレーションされ, 実用的な加工法であることが明らかとなった. また, 十分高いパワー密度で軟X線照射した後は, PDMS表面の化学的構造は保たれており, PDMSのままであることを明らかとした. 以上の研究により, PDMSの微細加工に有用な方法を見出した.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までに, レーザープラズマ軟X線をPDMSに照射することで, アスペクト比が10までのマイクロ加工が可能であることを明らかとしている. しかしながら, 軟X線のパワー密度がアブレーション閾値近傍では, PDMS表面が隆起する場合がある. 従って, 100 nm より精密な加工には向かない. また, 紫外レーザー光を用いたアブレーション加工の場合には, 隆起する時にはSiO2にに変性することが報告されている. これは, PDMSの特性を失うことを意味し, 基板や流路に用いる用途に適さない. これまでに, 波長領域が異なる軟X線源とメーカーが異なるPDMS試料に対して試みた範囲では, 隆起しない場合も見つかっており, これらの条件を詳細に検討する. とくに, 20 nm から 100 nmまでの広帯域の軟X線, およびこれをフィルターを通して光子エネルギーを制限した光源, 11 nm の軟X線源, 13 nm の軟X線源の4種類の光源を用いた場合について調べる. また, 化学的構造,組成の異なるPDMSに照射する. これらにより, 加工特性を明らかにし, PDMSのマイクロ加工法を確立する. さらに, PDMSの微細加工の用途として, 厚さ10 μmのPDMSシートに1μmの貫通孔を複数開け, 細胞培養用の伸縮基板作製することを目指す。また, プレナー型パッチクランプデバイスの作製のため, 細胞をデバイスの位置に合わせて配置する流路の作製を目指す. これらに適したPDMSの構造の作製を試みる.
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